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『資料読解 記述式問題集』編者にインタビュー<Q&A>!

『大学入学共通テスト対策・国語 資料読解 記述式問題集』がいよいよ刊行となりました!お待たせしてしまい誠に申し訳ございません。

 刊行にあたり、ご採用の先生方から多くいただいたご質問に答えていただく形で、編著者の東京都立大江戸高等学校教諭・山口正澄先生にインタビューを行いました。「大学入学共通テスト」対策に向けて、ご参考にしていただけましたら幸いです。

Q.出題されている問題は、どのような理由で選ばれたのですか?

A.共編著者である石出靖雄先生からテーマのアイディアを多数出していただき、その中からなるべく多くの高校生に考えてほしい、あるいは今から知っておいてほしいというテーマを二人で厳選して問題を作っていきました。選んだ問題を明治書院の編集部さんにも吟味してもらって練り上げていきました。

 個人的に思い入れがあるのは、「アルバイト求人広告」と「労働時間の見直し」の問題です。今の高校生が将来の社会で働く際に、少しでも役に立つ知識と認識を持ってもらえればという思いも込めて作りました。また、今後特に注目される分野として、SDGsに関連するテーマは外せないと考えていますので、関連する問題には解説の中で触れています。


Q.試行調査(以下、プレテスト)では、論理的な文章を読んで考えをまとめる問題が出題されましたが、本問題集にはそのような問題はありますか?

A.昨年11月に実施されたプレテストの出題を踏まえて、応用編第3問「里山の機能」を追加しました。実際の国語の入試問題では自然科学系の評論文も多数出題されるので、幅広い分野の文章に触れる学習材にもなっています。


Q.1回目のプレテストと2回目のプレテストでは、正答の条件が変更されていますが、本問題集の条件には反映されていますか?

A.正答の条件で今回変更されたのは、例えば問3において条件を一つずつ設定するようにした点です。この変更によって自己採点がしやすくなったように見えますが、評価のc段階では組み合わせの数が増えたために、その判別に苦労することにもなっています。本問題集では、今回の変更と同様の形式も作ってありますが、多くは条件相互の組み合わせが複雑にならないようにしてあります


Q.「センター試験アレンジ問題」は、どのような観点でアレンジされたのですか?

A.過去のセンター試験の設問を記述式に置き換えて受験指導用に扱うことを、個人的に何度か取り組んできました。2018年のセンター試験の第1問では、図の付いた本文や設問内に会話文を含む形式といった新傾向の出題が見られ、これらも記述式の問題にアレンジできるのではないかと考えました。従来型のセンター試験と比べると目新しい出題ではありますが、文章展開の読み取りや本文に根拠を見つけることが求められている点で変わりはありません。

 先生方が今まで続けてこられた読解指導も活かせるように作問しています。単に記述式問題に置き換えるだけだと生徒の解答内容に幅が出て自己採点しづらくなるため、今回は基礎編第1問目であることを考慮し解答を導く条件を付けた形でアレンジしました。この解説には元の設問と選択肢を併記してありますので、記述式の問題と比較しながら学習することもできます。


Q.本問題集の特色を教えてください。

A.三点あります。

 一つ目は、設問のバリエーションが豊富であることです。SDGsに関連するテーマも複数あります。作問したテーマ自体がバラエティーに富んでおり、プレテストでの出題形式に沿った記述式以外に選択肢や計算の問題も入れているので、総合的な学力向上を図れる問題集になっています。

 二つ目は、誤答例をできるだけ示して自分の解答と照らし合わせながら自己採点しやすい解説にしたことです。記述解答は段階別の評価となるので、解答類型での4段階に配点も併記して、点数化することで自分の到達度を認識できるようにもしてあります。

 三つ目は、基礎編と応用編とのレベルや出題形式の違いがはっきりしていることです。問題レベルの目安は、1年生からでも取り組めるのが基礎編で、受験直前期まで学習に使えるのが応用編です。特に応用編第7問「アパートの賃貸契約」は、読み取る資料の内容や解答記述量のボリュームから最難関レベルと言えます。応用編を学習していて不安が生じた場合は、基礎編を復習して自信を付けるという方法も有効です。


Q.おすすめの使用時期はありますか?

A.2年生の夏休みくらいからが使いやすいでしょう。

 例えば基礎編の何問かを夏休みの宿題にして解かせておくと、先生方にとっても生徒の記述解答を参考にしながらどのような力を向上させていこうかと考えていける教材になると思います。2年生の秋ごろからは受験勉強を意識し始める生徒が多くなりますし、問題に選んだテーマは前述のように大学進学後にも関連する内容である点を伝えることによって、この問題集で学習する意義を生徒に感じてもらえるでしょう。もし中高一貫校のような学習進度の学校ならば、1年生途中からの導入や中学の時期からでもチャレンジとして基礎編から取り組むこともできます。


Q.今後の共通テストの方向性は、どのように考えられますか?

A.方向性の指示を出す大学入試センターでもまだまだ試行錯誤している段階ですから、あくまでも現状からの推測になりますが、まず出題に関して言えば、図表を含めた複数資料で出題される可能性が今後も高いと考えています。2回目のプレテストでは論理的文章での出題になりましたが、これは従来型のセンター試験での出題に沿う形式である一方、あらゆる分野の資料や文章から出題されるものだと認識してもらうためでもあったのではないでしょうか。ただし、このまま論理的文章の組み合わせ一辺倒で出題ということも考えにくいので、実用的な文章の観点から図表の読解力も磨くべきでしょう。その点を意識して本問題集を作っています。問題集のタイトルに「資料読解」と付けた点も、「図表などの資料から必要な情報を取り出す」という意味合いを込めています。

 そして、会話文については継続していくと考えています。「主体的・対話的で深い学び」が求められていく中で、英語や数学といった他教科でも対話が重要な学習要素になります。これまで出題された会話文を見ると主に架空の高校生に話し合わせるスタイルで、内容があまり現実的とは言えない部分も含まれています。しかし、本当に実際の高校生が話すような内容では入試問題として扱いづらいでしょうから、作問の都合でこのようなスタイルにならざるをえないと言えます。問題集では出題者が作成した会話文を用いていますが、なるべく現実にありそうな内容で作りました。

 気になっているのは、採点がどれくらいしやすくなっていくのかという点です。これは方向性が読めない分、改善を期待するばかりです。本番の入試を採点する事情を推測すると、採点上の課題はまだ解決されていません。生徒による自己採点のことを含めると、試験実施後に学校現場の先生方は生徒から採点の確認を頼まれることになるでしょうが、今のままでは採点の不確かさが解消されません。

 例えば、「大学入学共通テストの導入に向けた試行調査(プレテスト)(平成30年度(2018年度)実施)の結果報告」(大学入試センター、平成31年4月4日)では、「漢字の正確な記述よりも内容面を重視した採点を行う。」としており、そのイメージとして、「指示しは、…(示→×「差」の誤字)」は「正答の条件を満たしていないとまでは言えない誤字、脱字」としています。

 2019年度は、2020年度の実施に向けた準備期間と位置づけ、「正答の条件等に関する考え方をわかりやすく整理し、高等学校や受検者に周知」する等としていますので、この点の課題も解決できる改善を願っています。


Q.共通テストに向けて、あるいは新学習指導要領に向けて、普段の授業から始められることはありますか?

A.共通テストに向けては、記述問題に対する生徒の抵抗感を緩和させていくためにも、普段の授業から「書く」ことを多く取り入れていけると望ましいです。

 そもそも本来の国語の学習として、語彙力を総動員して言葉を紡きながら意見を述べたり解りやすく説明したりすることが求められます。選択肢に頼っていては間違い探しを目的にするような学習にもなりかねません。ただし、共通テストの場合は全国50万人規模の受験生の解答を採点する都合で、採点者側のブレや相違を無くすように条件式記述の設問となっており、自由意見や多様な表現を網羅して評価する試験にはなっていません。個人的な論述をするのは各大学の個別試験の方になります。しかし、大学受験を目的に高校の授業をするわけではありませんので、普段からちょっとした事柄に対して書かせることを始めていくと良いでしょう。

 Twitterの普及で短文に慣れている生徒も今日では多いはずです。例えば、授業中のふとした疑問点をメモで随時記録するように指示しておいたり、周りの生徒の発表内容を箇条書きさせる場面を設けたりするなど、将来も役立つ能力育成として書かせる機会は授業内に多くあります。解答を書き上げる速さも考慮すると、字数条件の一つである「80字以上120字以内」のようにある程度まとまった文章量を書くには、どれだけの時間が必要なのか生徒個々に体感させていくことも必要でしょう。

 新学習指導要領に向けてはどんどん対話形式を取り入れると良いでしょう。

 一般的な授業スタイルでも発問を交えた「生徒と先生の対話」はよく行われていますが、そこに「生徒同士の対話」が補足説明や質疑応答など、さらに加わっていくと、生徒達が主体的に学習に向かう意識も相乗効果で高まると期待できます。生徒同士の対話は、基本的には「話し合い」ということになるでしょうが、徐々に「語り合い」にまで発展していけたら思考力や表現力の向上と共に、相手への心配りやコミュニケーション力の錬成にまでなると思います。ただし、形だけの対話であるならばせっかくの学習活動の効果も薄れてしまいますし、対話することが目的になるようではいけません。ペアワークやグループ学習以外にも、「生徒個人と教材(あるいは発問内容)との対話」は個々に思考を深めていくことに繋がりますので、生徒にじっくり考えさせるために先生側が「待つ」姿勢を授業で意識することは、現状と変わらず有用です。



 普段の授業から、根拠を指摘させたり、「この意見どう思う?」と生徒さんの考えを引き出すようにしているという山口先生。センター試験が大学入学共通テストに変わっても、日々の学習の積み重ねによって、将来の社会をより良く「生きる力」を身につけてもらいたいという思いは変わりません。

『資料読解 記述式問題集』

( 石出 靖雄 編著 | 山口 正澄 編著)

本体価格 700円+税、B5判、3分冊(2019年4/10刊)

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著者略歴

  1. 山口 正澄

    東京都立大江戸高等学校教諭

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