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小川洋子「教科書の中の種」(書き下ろしコラム)

 ◇今回特別に、作家の小川洋子さんに「国語の教科書への思い」を書いていただきました。


 ラジオ番組で、毎週一冊、文学遺産と呼べる本を紹介しはじめて十年以上が経つ。リスナーからの反響が大きいのは、例えば『枕草子』や『山月記』や『舞姫』など、教科書に載っている作品を取り上げた時である。放送をきっかけに、学生時代を懐かしく思い出す人もいれば、子どもとその作品について語り合う人もいる。また別の誰かは、久しぶりに再読し、学生時代には気づけなかった新たな魅力を発見する。

 若い頃に出会った文学は、本人が思うよりずっと深く、記憶に刻まれているものなのだ、と思う。たとえその時はわけが分からなかったとしても、心のどこかに、何らかの種は残される。そして何かの機会に、ふっと花を咲かせる。長い年月、埋もれていたとは思えないくらい、みずみずしい花だ。

 文学は読み手の心が整うまで、辛抱強く待ってくれる。誰も見捨てることがない。教科書の中に潜む感動の種は、ひっそりと、読み手に寄り添い続ける。

 


<教科書収録作品>

明治書院の教科書には、以下の3作品を収録しています。

「『自分のために詠まれた歌』が、必ずある」
『万葉集』との出会いを、人麻呂の歌など3首の鑑賞をもとに描くエッセイ。(『新 精選 国語総合(古典編)』、『新 高等学校 国語総合』収録)

 

「ハキリアリ」
異国で人質となった8人の日本人が自分の物語を語る連作のうちの1篇。8人を救う任務にあたった政府軍の兵士の物語。特殊な場面設定が読みの解釈を広げる一方で、平易な表現のなかに大事なことを考えさせる優れた作品。(『新 精選 現代文B』収録)


「博士の愛した数式」
数学をモチーフに描かれる、登場人物の人間的な味わいを読み取る。(『新 高等学校 現代文B』収録)

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著者略歴

  1. 小川 洋子

    小説家。
    言葉になる前の心の機微や思いを小説という形で表現した作品が多く、日常・非日常が織りなす繊細な世界を表現する。

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