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今日の漢文

世皆称す、孟嘗君は能く士を得、士は故を以て之に帰す。…

本文(書き下し文):
世皆称す、孟嘗君は能く士を得、士は故を以て之に帰す。而うして卒に其の力に頼りて、以て虎豹の秦より脱す、と。嗟乎、孟嘗君は特だに鶏鳴狗盗の雄なるのみ。豈以て士を得たりと言うに足らんや。然らずんば、斉の強を擅にし、一士を焉に得て、宜しく以て南面して秦を制す可し。尚お何ぞ鶏鳴狗盗の力を取らんや。夫れ鶏鳴狗盗の其の門に出ずるは、此れ士の至らざりし所以なり。

読み:
よみなしょうす、もうしょうくんはよくしをえ、しはゆえをもってこれにきす。しこうしてついにそのちからによりて、もってこひょうのしんよりだっす、と。ああ、もうしょうくんはただにけいめいくとうのゆうなるのみ。あにもってしをえたりというにたらんや。しからずんば、せいのきょうをほしいままにし、いっしをこれにえて、よろしくもってなんめんしてしんをせいすべし。なおなんぞけいめいくとうのちからをとらんや。それけいめいくとうのそのもんにいずるは、これしのいたらざりしゆえんなり。

通釈:
世間の人々はこぞって褒めそやして、「孟嘗君は優れた士人を見いだして家来にする能力を持っていて、優れた士人はそのために孟嘗君のもとに身を寄せたのである。そして結局はそれらの士人の力添えに頼って、虎や豹のような凶暴な秦の国から脱出することができたのだ」と言っている。ああしかし、孟嘗君は単なる鶏鳴や狗盗の親分であるに過ぎないのだ。とうてい「士を得た」などと評価するには足りないのである。もし孟嘗君が鶏鳴や狗盗の親分でなかったら、彼は斉国の強大な勢力を思いのままに発揮し、それを基盤にして真に優れた一人の人物を部下に持ち、その結果、斉国の君主となって秦の国を制圧することができたに違いないのである。その上、どうして鶏鳴や狗盗の助力を借りることがあろうか。そもそも鶏鳴や狗盗のような男が孟嘗君の門下から出るということは、これこそ優れた人物が孟嘗君のもとに身を寄せなかった証拠なのである。

出典:
新釈漢文大系 114 唐宋八代家文読本 七』347ページ

新釈漢文大系 114 唐宋八代家文読本 七

 

ポイント
王安石の「孟嘗君伝を読む」の全文。王安石にとって、士とは、学問教養を備えた人格者でなくてはならない。宋代の意識をもって、わずか90字で、凡俗な評価を批判し、鋭く知的な断定を下している。

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