人の短を道うこと無かれ、己の長を説くこと無かれ。…
本文(書き下し文):
人の短を道うこと無かれ、己の長を説くこと無かれ。人に施しては慎みて念うこと勿かれ、施しを受けては慎みて忘るること勿かれ。世誉は慕うに足らず、唯だ仁のみを紀綱と為せ。……言を慎んで飲食を節し、足るを知れば不祥に勝つ。之を行いて苟も恒有らば、久久として自ら芬芳あらん。
読み:
ひとのたんをいうことなかれ、おのれのちょうをとくことなかれ。ひとにほどこしてはつつしみておもうことなかれ、ほどこしをうけてはつつしみてわするることなかれ。せいよはしたうにたらず、ただじんのみをきこうとなせ。……げんをつつしんでいんしょくをせっし、たるをしればふしょうにかつ。これをおこないていやしくもつねあらば、きゅうきゅうとしておのずからふんぽうあらん。
通釈:
人の短所は追及するな、自分の長所は自慢するな。人に恩を施したら早く忘れよ、だが、人から恩を受けたら決して忘れるな。世間の名誉を得ようなどとは思うな、ただ仁を心の寄り所にせよ。……ことばをつつしみ暴飲暴食をせず、足りることを心得ておれば災いにも勝てる。以上のことを常に行えば、長い間おのずからかおり続けるであろう。
出典:
『新釈漢文大系 93 文選(文章篇 下)』389ページ
後漢の崔瑗の「座右銘」より。「銘」とは、金属や石などに刻み記して、功績などを称えたり、自戒としたりする文。「座右銘」は、たえず自分の戒めとする言葉の意で用いられるが、この崔瑗のものが最初とされる。