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精選 言語文化【教科書編集委員のことば】

明治書院の新しい『精選 言語文化』は、どのような思いで作られたのか。 ポイントを各分野の先生に語っていただきました。

 

古文編(土佐日記)

田村 隆(東京大学准教授)

 単元五では『土佐日記』から三教材を採録した。現行版の「門出」「帰京」とともに今回新たに加えた「阿倍仲麻呂では、異国の地で三笠山の月を思って和歌を詠んだ阿倍仲麻呂のことを、紀貫之もまた旅中の月を見上げて思いやる。仲麻呂、貫之が月に寄せた望郷の念を、千年後に生きる私達は今こそ丁寧に読み取りたい。
 また、この段には仲麻呂の歌意を唐土の人に漢字で示して理解し合う場面がある。日記冒頭の「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。」という仮名日記執筆の宣言からもうかがえるように、『土佐日記』は文字表記に意識的な作品である。この教科書では日本語の文字の豊かさにも着目し、橋本治氏による「男の文章と女の文章」、「古文の窓」の「真名と仮名」、および『土佐日記』の冒頭を変体仮名で読む言語活動を通して、高校生が古文に興味を持って一体的に学べるよう工夫した。

 

古文編(おくのほそ道「種の浜」)

佐藤至子(東京大学准教授)

 『おくのほそ道』は、近世の紀行文学としてもっとも知られた作品の一つである。
 『おくのほそ道』の文章は読みやすい。やや長い文であっても、構造がさほど複雑ではなく、理解しやすい。叙景と叙情が連動している点も、魅力的である。「旅立ち」の後半では、出発の朝に見た景色が、江戸を離れる寂しさとともに記されている。出発の前後にさまざまに心が揺れ動くさまは、現代の私たちにも共感できるものである。
 「平泉」で芭蕉が見ているのは奥州藤原氏の盛衰が刻まれた風景である。目前の景色から、その地にまつわる史実が想起され、さらに漢詩の一節が脳裏に浮かび、芭蕉は涙している。ここでも叙景と叙情が結びついている。
 「種の浜」は、このたびの教科書で新たに採録した章段である。芭蕉はなぜ「ますほの小貝」を拾おうとしたのか。「夕暮れの寂しさ」にどのような感情を抱いているか。じっくりと考えていただければと思う。

 

漢文編(思想)

坂口三樹(文教大学教授)

 明治書院の教科書は、『論語』教材を重視し、他社に比して多くの章句を教材として採録してきた。今回の改訂でもその伝統は維持しつつ、さらに日本人がどのように『論語』を受容してきたかとの視座に立って、貝原益軒『慎思録』乾篤軒『笑話出思録』から各一編を新たに採録した。ともに『論語』の章句の引用が、論の主張や話の展開に巧みに生かされている点に注目してほしい。とりわけ『笑話出思録』は民間に流布していた笑話の漢訳で、採録した話も『論語』の章句の当意即妙な引用が笑いを誘う。当時の日本人が、いかに『論語』を身近な古典として自家薬籠中のものとしていたかを窺うに足る教材といえるであろう。
 こうした新規教材による学びを踏まえ、この単元では最後に、『論語』の語句を引用しながら
自己の主張をまとめる言語活動を用意した。
 二十一世紀を生きる日本の高校生が、こうした楽しい教材で『論語』を学んでいると知ったなら、かの孔夫子も莞爾として微笑まれるのではあるまいか。

 

漢文編(詩文)

齋藤希史(東京大学教授)

 須磨に下った光源氏が十五夜の月に「二千里外故人心」と誦したのは白居易が遠地の元稹を思って詠んだ「八月十五日夜、禁中独直、対月憶元九」の句、『和漢朗詠集』にも前句「三五夜中新月色」と対句で採られる。すべて小学校で習う漢字で構成され、返読も不要ながら、詩句にこめられた深さは千二百年の時空を超える。教材選定では、伝統的な漢文のもつ簡潔ながら豊かな表現から新たな言語力を育んでほしいと願い、先人が愛誦したこうした詩をまず選び、言語活動にもその特質を生かすよう心がけた。
 さらに、明治の文人成島柳北がパリ郊外のベルサイユ宮殿で往時を詠じた詩などを新たに加え、漢文には世界に開かれた広がりと多彩さがあり、それが西洋文明との出会いにも生かされ、私たちの言語文化の糧となっていることにも目を向けてほしいと考えた。
 なぜ漢文を学ぶのか。その問いに答えうる教科書になっていると確信している。

 

近現代文編

小澤 純(慶應義塾志木高等学校教諭)

 近現代文編は、文学と時代の相関性に目を向けて編まれています。例えば、定番の「羅生門」や「城の崎にて」は、心の動きを正確に写す近代精神を共有しており、読み比べると新たな発見があります。梅崎春生「写真班」は、高度成長期の違和感について、持ち家を舞台に強烈な笑いで表現します。幸田文、村上春樹、川上弘美の作品も、各時代に向き合っています。
 太宰治「待つ」は、戦争が一人の若い女性の心持ちや生き方に影響を及ぼす過程と顚末を、巧みな語りで伝えます。文末で呼びかけられる「あなた」とは誰なのでしょうか。近年、「女生徒※太宰治の作品」など女性独白体に潜む問題点が指摘され、ウェブ上の学術論文でも参照できるようになりました。作家に還元しない多角的な視点で、作品を一つずつ精読する必要があります。時代状況を丁寧に掘り起こすことで、初めて、駅前で何かを待ち続ける「私」の希望の内実に迫ることができるはずです。その風景を、教室の生徒たちと分かち合いたいところです。

詩歌編

田口麻奈(明治大学准教授)

 宮沢賢治「永訣の朝」には、長年の定番教材たるにふさわしい詩歌の魅力が凝集しています。妹・とし子の臨終の言葉として作品内に刻まれたいくつかのフレーズは、方言としての手触りを残しながら、なおかつ唯一無二の詩的表現として読者を惹きつけてきました。日常の話し言葉、また見慣れたはずの風景が、愛する者との別れという切実な非日常の瞬間と混ざり合い、ほかの何にも代えがたい表現の連なりとして立ち上がってゆく様は、初めて本作に触れる若い読者たちを、詩とは何かという根源的な問いにまで誘導してゆくことでしょう。
 また本作においては、死別せねばならない者同士が、それでもお互いへの思いに終始することなく、見知らぬ他者と「みんな」の幸せを願い、祈ろうとしています。これが、本作を傑作たらしめている最大のゆえんではないでしょうか。今回の編集では、本作に続けて、人間にとって救いとなる詩の役割についての鮎川信夫氏の短文「人生の〈救い〉としての詩」を載せました。悲しみを超える祈りの言葉が、若い読者の皆さんにとって、いつしか救いとなってくれることを願ってやみません。

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