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『実用 資料読解問題集』ご採用校インタビュー!

ご採用校に聞きに行きました!~千葉日大第一高・山形先生~

山形浩之先生(千葉日本大学第一中学・高等学校教諭)

 千葉日本大学第一中学・高等学校は、千葉県船橋市にある、日本大学の最初の付属校。
 多方面の学部を設置する日本大学との連携がある。
 生徒の主な進路先は、日本大学と難関他大学が約半数ずつ。

実用文の「ポイント」

 新学習指導要領に先行した共通テスト(以下、「共テ」)に向けて、実用的な文章を扱う必要性を感じました。国語科主任として準備も含めると6年ほど前から旗振り役として向き合っています。国語科には、第一に「生徒が書かれていることを正しく読めるようになる」という責任があると考え、授業では評論文を重視しています。それと並行して実用文を扱い、最初にオリジナル教材を使ってどう向き合うべきかを解説します。これは、駿台の霜栄(しも さかえ)先生が、OECDのPISAに関連して解説されたものを参考に作成したものです。

ここでは、

(1)想定される場面には、①私的状況 ②公的状況 ③教育的状況 ④職業的状況 があるという点。

(2)テクストには様々な種類があり、グラフや表、リストや法文などの非連続型テクストから情報を取り出すことは、生徒が慣れ親しんでいる連続型テクストの読解とは異なっている点。

(3)文章や新聞記事のタイトルや見出し、表やグラフのタイトルや縦・横軸、キャプションなど、優先的に見ていくべき情報がある点。

この3点を解説します。

 その後、いよいよ本教材に取り組みます。本校では、1年生で全員に(『実用 資料読解問題集』を)持たせ、学年をまたいで2年生末まで使用します。年に3教材ほどは授業で扱い、残りは考査前課題として取り組むことで、高1で「基礎編」、高2で一冊すべてを終えるようにします。着眼点を把握した生徒がまず自力で解答し、解説・グループワークの際には、先の(1)~(3)を必ず確認していきます。

 生徒たちは「実用的な文章」大好きですね。着眼点を教えるとすぐに身につけます。評論文は生徒たちにとって生活から乖離したように感じるみたいですが、実用文は取り組みやすいようです。むしろ教員の方にこそ食わず嫌いがあるでしょうね。でも、生徒の意欲を見るとやはり嬉しいですよね。

共テ対策&擬似探究

 本教材の「通学路の騒音」や「エスカレーター歩き」、「食料ロス」などには、身近な話題ということもあり、生徒が積極的でした。共テの記述式が頓挫した今、五択式であるのは実戦に近い形になって良かったです。

 本教材の魅力として、説明文や会話文などの連続型テクストと、図表やリストなどの非連続型テクストのバランスが良いことが挙げられます。説明文の読み比べや複数の資料からの情報集約も練習できます。資料にはタイトルは勿論、見出しやキャプションなど、情報の階層性という点で工夫が見られ、実用文のポイントをまさに実践できるわけです。情報の抑揚・強弱があることは非連続型テクストを扱う上で重要だと考えています。

 また、「探究」の流れに沿っている点にも感心します。学習指導要領、共テ、これらでは探究の4ステップ「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」がかなり意識されています。本教材はそのうち、特に「整理・分析」の訓練にフォーカスしていると感じます。模範解答のない問いに最適解を見出すプロセスである探究を、いわば擬似的に体験できる教材になっています。ここで探究ステップに慣れることが、本格的な探究の入り口として機能するはずです。

 リクエストがあるとすれば、探究ステップの「まとめ・表現」まで教材に入れてもらえると嬉しいですね(笑)。共テでは、この「まとめ・表現」を必ず設問に入れています。「ここまでのように分析したAさんは、次のようなレポートにまとめた。空欄に当てはまる内容として~」という設問などですね。

 さらに、「現代の国語」における「話すこと・聞くこと」「書くこと」の領域の時間を確保するのに、多くの学校は苦慮していると思います。本格的な探究も然りです。そこで、あたかも生徒自身が本教材の「課題の設定」「情報の収集」(さらに、授業中に「整理・分析」)を行ったということにして(教材の登場人物になりきって)、その「まとめ・表現」は実際に教室でさせることができる、つまり、教材の続きのプロセスを教室で発表したり文章にまとめたりできるような補助教材があると大変助かるなと思いました。擬似探究の最終プロセスまで行えるうえ、発表の仕方や文章のまとめ方や引用の仕方などについて指導する機会になりますからね。

求められていることは、「素早く、正しく」

 共テは、R7試作問題が発表されていますが、とにかく時間がタイトになるということは間違いありません。実用文は、時間をかければ誰でも解けますが、これからはそれがいかに「素早く、正しく」答えられるかが求められているのだと思います。時間が足りないと思うと、誰でも焦りますよね。いくら学力のある生徒でも実用文への向き合い方をトレーニングしておかないと、いざ受験した際に時間配分を誤って大失点につながりかねないところが怖い。かつてのセンター試験で点をとれた知識・技能などのインプットだけでは点をとれないのが共テなんです。教員は、それをどう指導していけばよいのか。延長された試験時間と配点からすれば、共テでは実用的な文章に10分強をかけると想定されていますが、確かに12~13分程度で解けるように指導していく必要があると思います。2022年に発表された「実用的な文章」の試作問題は、実用文のポイントを押さえていれば、それくらいの時間で解くことができるように作られていました。

 共テから逃げない

 情報処理能力が求められているのはたしかだと思います。それは、国語だけでなく、文章量の多い英語や文系科目は勿論、複雑な設定がなされる理系科目もです。

 本校では、生徒の約5割超が、付属の日本大学に進学します。ですから実は、多くの生徒にとって共テ対策はそこまで必要とされていないんです。ただ、「共テから逃げない」ということは非常に重要だと思います。もちろん生徒の幅広い進路選択のためにという意味もありますが、全てではないにしてもこれからの社会に出る若い人に身につけてもらいたい能力が共テに表れていることは間違いありません。探究学習もそうです。これだけ情報があふれているなかで、知識は陳腐化します。知識があることはそれ自体では価値が低下し、むしろその知識をいかに活用できるかが求められていると思います。それは国語科だけでなく、どの教科にも関わること。正答のない問いに対して、最適解を見つけていくプロセスを身につけなければなりません。

 一方で、国語教育が従来大切にしてきたことも軽んじてはならないと思います。古典や小説から得る想像力や豊かな語彙は、即効性ではないにしてもじわじわと、そして確かに私たちの生活、さらには社会人としての実用にも生きてくるはずです。豊かな言葉の使い手が、世界を精緻に捉えることができる人物ですし、複雑な思考にも耐えうる人物たりえます。霜先生のお話にありましたが、そもそも平成29年に示された最初の共テ試行調査問題の「実用的な文章」の正答率は、「論理的な文章」よりも「文学的な文章」や「古文」の正答率との相関関係が強かったということをお聞きしました。確かに、これらの文章はリード文によって複雑な設定がなされるのが普通ですからね。実用文に求められる場面設定を踏まえて文章、資料を読むという力は、これまでも文学を通じて私たちは指導してきたのだと、認められるような思いがしました。

授業で大事にしていること

 1点目は「実践と活用」。私は公立高校の出身ですが、高校のころは国語が得意ではなかったんです(好きではありましたが実戦力に欠けていた)。例えば数学だと、授業で教わったそのままの問題が定期考査で出ることはないのに、国語は授業で習った文章がそのまま試験に出てくることが不思議でした。これは暗記テストだなと。ですから、実戦力、活用する力を育てることをテーマに授業を展開したいと考えています。例えば、定期テストでは常に30%は初見の文章を解かせることにしています。授業で扱ったテーマで、そこで得た能力についてドリル・実戦に取り組んだうえで、その活用を試すわけです。授業でも教科書教材を用いるのは6割程度で、あとは大学入試の過去問や探究的な学習をやりますね。汎用性のある力を獲得させたいと思っています。

 それに、現代語の運用能力を高めるという、そもそもの大目標を掲げています。文学に触れる機会の多くない生徒たちに文学それ自体を楽しませることは大切ですが、それに加えて現代文では勿論、古典であってもそれを通じてことばを豊かにしたり(それが結果として世界を精緻に捉える視点につながる)、日常のコミュニケーションについて自覚的・意識的になったりできるように導きたいと考えています。敬語ネイティブではない生徒たちが、敬語を本質的に理解して活用する大きなきっかけは、間違いなく古文にあると思います。日本語は1000年以上にわたってその本質は変わっていないようです。古典は、「翻訳の必要な日本語(本質は同じ、だけどちょっと自分とは距離のある日本語)」だからこそ、現代に生きる自分の日本語を対象化して、自覚的になれる契機となるのだと思っています。

 そして2点目は「メタ認知」です。自分を俯瞰的に捉える、客観視する、そのうえで今後の学習方針を個々に考えるということを大切にしています。例えば、定期テストの解き直しをさせ、その後には必ず振り返りを書かせます。どういうところができなかったのか、どういう思考が適切であったのか。その主体性があってこそ、自分で学ぶことができ、次に生かすことができるはずです。評価の観点である「主体性」は、「=積極的」ではなく、こういった振り返りの力を見ていくべきだ、ということですよね。自ら学ぶ姿勢、学び方そのものを身につけて卒業してほしいと思います。

(聞き手:明治書院 三樹蘭)


資料の読み方を理解し、
論理の構成を身につける!

実用 資料読解問題集石出靖雄 ・山口正澄 編著

価格1,056円・B5・80ページ

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