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著者解説『新入試評論文読解のキーワード300』

評論文読解のキーワード「芸術」

1-2-5「芸術」

——ここでは、知の一つである「芸術」についてお話します。

芸術の現在

ⅰ)アーティスト?

 今の世の中、音楽や動画があふれています。
 サブスクで、聞き放題、見放題のサービスを契約している人も多いでしょう。

 「芸術」というと、クラシック音楽や油絵などに限定して考える必要はありません。
 アイドルだろうが、Jポップだろうが、アニメだろうが、ある意味で「芸術」であることに変わりありません。
 でもなんか違うよな、と思うとしたら、それは、「売れたい」感が漂っているからでしょうか。

 芸術は、名声やお金のためにあるのではなく、ただただ美を生み出すためにある、、、
 という考えはたしかにあります。
 それを「芸術のための芸術」とか「芸術至上主義」といいます。

 が、芸術とは、〈世界のあり方を表現するもの〉だと広く定義すると、日常とは違う世界を味わわせてくれて、私たちに元気を与えてくれたり、新しい道を示してくれたりするアイドルもポップスも漫画も、ただの娯楽ではなく芸術ととらえてもかまわないはずです。

ⅱ)聖地巡礼

 近代以前、芸術の多くは、宗教絡みでした。
 歴史の教科書、開いてみてください。
 仏像やマンダラ、宗教画や宗教音楽、、、
 宗教が語る明確な世界像を表現するのが芸術の役割だったわけです。

 しかし、近代になって、神から解放されると、芸術は、私たちに〈新しい世界のあり方を見せてくれるもの〉になりました。
 だから、自然は芸術を模倣します。

 たとえば、モネ。
 印象派として有名な画家ですが、風景よりも光そのものを描こうとした、といわれています。
 モネの作品を経験した私たちは、現実の風景においても、そこに光があふれていることを見てしまいます。
 
 たとえば、聖地巡礼。
 漫画やアニメ縁の地を巡ることですよね。
 ここが「あの」シーンの「あの」場所だな、と、私たちはその風景を見てしまいます。

 芸術が風景をまねたというより、私たちの風景の見え方が芸術作品をまねているわけです。

ⅲ)芸術の役割

 近代は、神から解放され、宗教の影響力が弱まりました。
 が、その代わりを担っているのが、科学です。
 神様がこの世界を作ったという話の代わりに、ビッグバンがこの世界を作ったという話が信じられるようになったわけです。

 が、科学は世界を語り尽くしているわけではありません。
 そもそも「生きる」とは何か、について語ってくれるわけもなく、生きることの喜びや苦しみも説明してくれません。
 科学が描く世界像はある立場から見た世界の見え方の一つにすぎません。
 きわめて部分的なのです。

 それを埋めてくれるものは何か。
 その一つが芸術です。
 近代の芸術は、理性ではとらえきれない、世界のあり方を表現し、私たちに、新しい世界のあり方を提案してくれるものなのです。


1-2-6「人間」について


新入試評論文読解のキーワード300 増補改訂版
大前 誠司 編著
1,430円・四六判・328ページ

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著者略歴

  1. 大前 誠司

    1962年徳島県生まれ。東京大学法学部卒。
    一般社団法人学びプロジェクト(manabi-project.com)代表理事。
    現在、あざみ野塾/あざみ野予備校、あざみ野大人塾などを運営。

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