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『言語文化教育の道しるべ』実践報告

言語文化教育の道しるべ『言語文化教育の道しるべ』実践報告
 
※2018年8月1日刊行『言語文化教育の道しるべ』より、実践報告を一部抜粋でご紹介します。
本文中の注や参照章名等は割愛させていただきました。
 

(まえがきより)
 本書で言う「言語文化」は、学習指導要領で言うところの「伝統的な言語文化」と一致するものではありません。また、新科目「言語文化」のことでもありません。むしろそれらを当然のごとく含んでいるものであり、さらには国語教育・言語教育で扱われる全ての事柄を「文化」という切り口から見た場合の 名称です。これについての詳細は本書の中で述べたつもりです。
 …「アクティブ・ラーニング」から「主体的・対話的で深い学び」へと言葉は変わりましたが、心ある国語教師たちはこれまでも常にこうした学びを追究してきました。それは必ず「新しい時代に必要となる資質・能力の育成」に繋が るものです。本書で述べた理論的基礎はそれを直接授業で用いるものばかりではなく、むしろ授業を下支えするものです。また、本書で紹介した実践にはかなり古いものもありますが、新学習指導要領の精神にはむしろ以前より近づいているものすらあると考えています。現在の、そして将来の国語教育関係者の皆様が学習者の指導に本書をお役立てくださるのであれば、著者として望外の喜びです。少しでもご参考になりますことを祈って。
(著 者)


(第6章 演劇的活動を導入した指導
文部科学省のコミュニケーション事業による演劇を導入した実践の総括的検討
──高校国語科としての台本創作と上演発表を振り返る── より)

 

1 本節の目的
 …筆者の授業は、文部科学省が2010年度から実施している「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」(通称「コミュニケーション事業」 。以下、 「本事業」 )に、2011 年度より7年連続で採択されている。1年目と5年目は現代文分野で実施したもの、2~4年目および6~7年目は、古典分野で実施したものである。本事業の説明は文科省のウェブサイトに掲載されているが、要するに、コミュニケーション能力の育成に資するために、芸術各分野の実演家(以下、 「アーテ ィスト」 )を派遣して教師とワークショップ(以下「WS」 )等のチームティーチングを行うことでその効果を上げるものである。実施に当たっては、条件と して「教育課程に位置づけられること」が求められ、あくまでも各教科等の、 正課の授業の中で実施することになる。
 ただし、その授業の目標が「コミュニケーション能力の育成」のみになることはあり得ない。各教科の固有の目標は当然ある。筆者は本事業が趣旨として掲げるコミュニケーション能力の育成を目標の1つに入れながらも、各年度とも別の目標に力点を置いて実施してきた。今回はそれを総合的に報告したい。

 

2  1年目の実践──先行実践(現代文分野)をアーティストとの協働で

 

2.1 先行実践
 …話し言葉教育の一環として、語用論の理論の基本を生徒にわかりやすい形で示して会話に関 する言語認識の育成とその深化を目的として、語用論を意識した短い会話台本をグループ作業で作り、学級で上演した上で、語用論上の工夫したポイントを説明する、というものである。この実践は、2006年度を皮切りに3回実施してきた。だが、その中で物足りなさを感じるようにもなってきていた。それは、生徒の作る台本の大半が、受け狙いで面白おかしいだけの台本を作る方に腐心し、語用論的な認識を深めることが二の次になっていたからである。そこへ、 2010年度から始まった本事業にNPO法人PAVLIC(パブリック)のご協力をいただけることになり、翌2011年度に応募して採択された。この申請の時は、 言語認識を高めることと併せ、コミュニケーション能力の向上を目標の第一項に掲げて採択されている。2011年度は、2年生の現代文を4クラス担当した。 本事業では授業で行われるWS の回数が12回までとされているため、各クラス3時間ずつである。なお、最終回の発表を時間内に済ませるため、各クラスとも6班(1班あたり7名程度)となった。これはその後も変わっていない。 班の人数がやや多いが、時間的な制約のためやむを得ないものと考えている。


2.2  実践の概要
 これは、語用論の基本(グライスの「協調の原則」とリーチの「丁寧さの原理」を中心に易しくまとめたもの)を学んだ後で、各グループで「その時たまたま思いついた言葉を並べ、それを必ずその順序のまま用いながら、肉付けして3分以内に終わる台本を作って発表する」というものである。

◇第1時 「語用論」についてのプリント学習。筆者による講義が中心。
◇第2時 アーティストのデモンストレーションを参考に、各人がたまたま思 いついた言葉を1~2語ずつ必ず出し、それをその順番で使うように、 人物・場所・ストーリーを組み立て、第一次台本を作る。
◇第3時 各班とも第一次台本を読み上げる発表(リーディング発表)を行い、 アーティストからコメントをもらう。その後、アーティスト側で用意した長めの台本と、無駄をなくして短くした台本による演示のデモンストレーションを見た上で、 「語用論」を意識しながら無駄な会話を削る方向で台本を推敲する。
◇第4時 各班の発表(リーディングではなく台詞を覚えて実際に上演)とそ れに対するコメントおよび振り返り。

 ここにおいて特筆すべきは、授業の計画に「偶然性」を積極的に導入する、 というアーティストの発想である。授業は意図的に計画されるものだが、 「意図的に偶然を取り入れる」という発想は、我々教員にはあまりない。ここでは、 「たまたま思いついた言葉」同士には何の関係もないが、その無関係な言葉だけでも、プロの俳優たちならあたかも関係ある会話であるかのように読むことができる。だが一般の高校生にはそれは無理なので、言葉の前後に肉付けをしてもよいものとした。しかし、無関係なものに関係性をつけて、しかも少ない分量に収めた台本を作るのは、存外難しい。そしてここでは、この「無関係な言葉を必ず順序通りに入れなければならない」という条件が、 「受け狙いで面白おかしいだけの台本」に走らないようにするための歯止めになるのである。 しかもグライスの語用論の学習では、 「会話はコンテクストに依存する」とい う面に力点を置いたので、生徒は場面を具体的にイメージしながら、言わなくても済む言葉を削りながらも、全体としては繋がりのある話にしなければならない。この作業には各班とも知恵を絞る必要があった。しかも、一見無関係なものの間に関係性を見出す力は、全ての学術研究や芸術的創作の基盤になるの で、この力を育てる授業はこれ以降も毎年続けている。

 もう一つ、特に国語科教員に発想しづらいのは、 「生徒作品を多面的に見る」 ことである。往々にして国語の教員は、生徒が何か作品を創作した時に一種の文学的な「模範形」をイメージし、そこから外れたものを高く評価しない傾向がある。しかし、生徒の作った作品に対するアーティストのコメントは多彩であり、 「あ、これはギャグ漫画ですね。 『天才バカボン』と同じです。」とか、 「これは現実にはあり得ない話ですけど、シュールなファンタジーとしてはす ごく面白いですね。」といった褒め言葉が次々に出てくる。これは筆者にとっても極めて勉強になるもので、いかに作品に対する自分の見方が狭かったかを思い知らされた。


2.4 評価
 本事業では発表会等の終了時に「振り返り」を行うことが必須とされ、通常は口頭で行われる。そこでは、 「楽しかった」 「言葉の仕組みに敏感になった」 「またやりたい」といった発言が各クラスから出されていた。
 なお、各班の台本や上演の状況を点数化して成績に入れるような、狭義の評 価は行っていない。自身の聞く態度や活動に向かう姿勢については、以降のど の年度も最終的に簡単な自己評価票を書いて提出させている。

(続きは本書でご覧ください。)

言語文化教育の道しるべ

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著者略歴

  1. 浅田 孝紀

    東京学芸大学附属高等学校教諭
    東京学芸大学教職大学院特命教授(併任)

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