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出張講義『資料読解 記述式問題集』

資料読解 記述式問題集神奈川県向上高等学校にて、『資料読解 記述式問題集』編著者の石出靖雄先生(明治大学教授)による出張授業が行われました。

「資料読解 記述式問題集」を実際に見ながら、石出先生が資料のよみ方を解説してくださいました。
(なお、受講された2年生の生徒さんには、【基礎編 第4問「食料ロス」】を事前に解いておいてもらいました。)

「いい所だね~」という石出先生の明るい声で始まった授業。

 ところで最近、高齢者の方による事故がよく報道されてるけど、どう思う?高齢者が事故起こすことが「増えた」って感じる人?

(半数以上が手を挙げる。)


—―じゃあこれを見てください。平成29年までの年齢別免許保有者の交通事故件数グラフです。

 20~29歳の若い人たちの件数はどんどん減っているよね。じゃあ、高齢者はというと、僕らのイメージだとなんだかこう増えていってそうなんだけど、どう?実際は、横ばいです。それどころか、若い年代の方が絶対的に多いよね。でも考えようによっては、高齢者の運転者は少ないから事故件数少ないんじゃないの?って思うでしょ?


—―じゃあ次のグラフ見てみよう。今度は、条件を同じにするために、10万人あたりの事故件数のグラフを見てみます。

 確かに、80歳代は一番少ないわけではないんだけど、やはり若い年代の方が圧倒的に多い。これを見ると、本来だったら「若い人がまた事故を起こしました!」って2倍くらい報道してもおかしくない。でも、「高齢者がまた事故を起こしました!」ってニュースの方が視聴率が上がる。だから報道する。嘘じゃないんだよね、事故は起きてるわけだから。でも他の年代の事故を報道しないばかりに、あたかも高齢者ばかり事故を起こしているような印象になってしまう。

 つまり、今、目にしているのは偏った情報かもしれない、ということです。


—―次のグラフは10万人あたりの事故件数の棒グラフです。

 確かに高齢者はまあまあ事故を起こしやすいんだよね。でも16~19歳はこんなに起こしてる。ところで、コマーシャルで「大人の自動者保険」とかってやってるよね。どうしてそういう保険を売り出すかというと、これを見てください。30~39歳代、そこから70歳までは確かに事故件数がずっと少ない。だから保険料は安くて済むんだね。こういう情報を見ると隠れた事実がわかってきます。

さて、それでは本題に入ります。

 多くの資料があると、情報がたくさんあっていろいろなことがわかります。こういった問題を解く際には、その情報をどうやって関連づけて考えるか、が重要になってきます。さっきの高齢者の事故を考えてみよう。交通事故全体を見てみると高齢者の事故件数は少ないのに、高齢者の事故だけを見ているとまるで多いように感じてしまうよね。

 それではプリントを見ながら進めていきます。私は日本語学が専門なので、言語学の考え方を応用して今日は考えていきたいと思います。

言語学の考え方でみると、関係性には二つあります。

 一つは「範列的な関係」です。それに対して、もう一つは「統語的な関係」です。

資料読解1
大きく分けてこの二つがあるので、この考え方を使って問題を解いていきたいと思います。

•「範列的な関係」は、比較するとわかりやすい。
•「統語的な関係」は、どんな結びつきかを考えると情報を読み取りやすい。

これを覚えておいてください。「関係を意識すると、論理的に考えられる」のです。


他にも、資料を読むときに気をつけてほしい関係性があります。

資料読解2

•一つは、「因果関係」。これは、二つ以上のものの間に原因と結果の関係があること、です。
•一方は、「相関関係」。これは、一方が増加すれば他方も増加する、または減少するという関係です。そういう関係がある、とはわかっているけれども、そこに原因と結果の関係性があるとは言えない関係です。

 たとえば、「いつも朝食を摂る生徒は、成績が良い。」という文科省のデータがあります。
本当にそういうデータがあるそうです。アンケートで「朝食」を、「いつも摂る」「時々摂る」「摂らない」を答えてもらって、その回答と成績に関係性があったんだそうです。相関関係があることは間違いないんだけど、これ因果関係はあるかな?


—―朝食を摂る人の成績が良かった理由はどういうことだと推測できる?

 

生徒さん:「朝食を摂らせる家庭は、子どもの教育に熱心だから。」

 素晴らしい。それは可能性高いよね。朝食をきちんと食べると、規則正しい生活になる。親御さんも教育熱心かもしれない。そういう家には本がたくさんあるかも。そうしたら成績も上がるかもしれないよね。ここで重要なのは、「朝食を摂る」と「成績が上がる」ことは、絶対ではないんだよね。これは「相関関係」に過ぎない。

それでは『資料読解 記述式テスト問題集』18頁の「食料ロス」の資料を見てみよう。

※ここからは、『資料読解 記述式テスト問題集』をご用意の上ご覧ください。

次の【資料①~③】は、国際農林業協同協会翻訳・発行『世界の食品ロスと食料廃棄—その規模、原因および防止策』をそれぞれ部分的に引用したものである。これらを参考にして、各問い(問1~3)に答えよ。

 
 資料①は、食料ロスの解説。資料②③は、イモ類のロスの資料と、食肉類のロスの資料です。これらは、資料①が「抽象的な解説」なのに対して、資料②③が「具体的なデータ」になっています。とりあえず「統語的な関係」と見なしておきます。

資料読解3

 次に、資料②と③は、「イモ」と「食肉」という範列的な関係。また、資料②と③の中では、それぞれ「先進地域」と「開発途上地域」という範列的な関係も見られるよね。さらに、「生産」から「消費」までのサプライチェーンが色分けされている。これも「範列的な関係」だね。

—―それでは実際に問いを見てみましょう。

~中略~

問2ー(Ⅰ)イモ類【資料②】


 資料②③から、因果関係がわかったよね。問2では、その改善策を考えればいいんだよね。ここは資料に書いてないので、自分で考えなくてはいけない。ただここまで原因がわかったんだから、わかるよね。

資料読解4


—―どうしたら、(1)(2)段階(初期段階)で傷まないようになるかな?

 

生徒さん「傷む前に出荷する。」


—―そうだよね、早く売ればいいよね。他には?

 

生徒さん「気温が高くて湿度も高いと書いてあるから、冷蔵すればよい。」

そう、常識的に考えて、傷まないように冷やしてやればいいよね。


—―冷蔵するためには冷蔵庫を買えばいいけど、時間をかけずに次の段階に移るには、どういうことが必要?

 

生徒さん「生産された地域で食べる。」

それもいいね、地産地消だね。だけど、そこにある程度の人口が必要になるね。


—―もっと大規模市場に移すにはどうすればいいかな?

 

生徒さん「早く市場に出せばいいから、道路とか整備すればいい。」

そうだよね。こんな風に、因果関係をとらえると解決策が見えてきます。

資料読解5

資料読解6

~中略~

今日お話ししたかったのは、「複数の資料がどういう関係にあるか理解すると、全体像が見えてくる」ということでした。ありがとうございました。


大学でのお話なども混ぜていただきながら、楽しく45分の授業が終わりました。向上高等学校の皆さん、ありがとうございました。「おまけ」として、魚類・乳製品の資料を配布された石出先生。ぜひ生徒さんには、新しい情報を読み取ってほしいと思います。


※本記事は、向上高等学校で行われた出張授業をもとに、編集・再構成したものです。
※「資料読解 記述式問題集」の見本請求・お問い合わせはお客様センター(0120-595-170)まで。

『資料読解 記述式問題集』

( 石出 靖雄 編著 | 山口 正澄 編著)

本体価格 700円+税、B5判、3分冊(2019年4/10刊)

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著者略歴

  1. 石出 靖雄

    1963年埼玉県生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業、早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。学習院女子中・高等科教諭を経て、現在、明治大学商学部教授。

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