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言葉の宇宙はすばらしい(中島国彦)【教科書代表編者メッセージ】

中島国彦(早稲田大学名誉教授)

出会いを求めて

 「国語」の教科書をめぐる思い出は数多い。中でも、新しい教科書の目次に並んでいる文章の題名や書き手の名に接する時は、特別である。これから読む詩や小説はどんな作品だろうか、載っている評論からどういう問題が発見できるだろうかという思いが生まれるが、振り返ってみると、その底には、何らかの「出会い」を実感したいという強い感情があったのだと思う。
 
 宮沢賢治「永訣の朝」の「あめゆじゆとてちてけんじや」の一行に接し、その瞬間から忘れられなくなったり、夏目漱石「現代日本の開化」の「日本の現代の開化は外発的である」という明晰な説明に納得した経験は、いつも新鮮だ。言葉を通して、自分の中の何かが変わったからであろう。高校の教壇に立っていた時、教材を読み込み、生徒の日々の感情の動きに寄り添う毎日を送りながら、いつも思い出していたのは、そのことである。
 
 若い時に知ってほしい文学作品の一節に、漱石の『三四郎』に出てくる広田先生の「日本より頭の中の方が広いでしょう」のひと言がある。「頭の中」が生きた言葉でできており、言葉で考えることで無限の世界が生み出されるということを知ることは、何よりも大切だと思う。しかも、言葉を使う難しさと言葉の可能性を感ずることとは、実は背中合わせなのだ。言葉によって一瞬のうちに世界が広がる体験を、生徒と共有することができた時、本当に幸せだと思う。よく整えられた教科書が、その手伝いになればと願う。

新しい船出に

 いよいよ「現代の国語」と「言語文化」の新しい枠組みの二冊が、船出をする。新しい教科書を手にした印象は、これまでとは違うかもしれない。しかし、現代の問題を論じた文章を通して世界と自分を見つめ直し、新鮮な世界の文学に接して感性を育み、古典に描かれた先人の知恵に学び、生きた言語活動を手がかりに自分を世界にぶつけていく、そうした理念は教科書編集の基本である。〈伝統と革新〉の旗じるしのもと、二年生以降に使用する「論理国語」「文学国語」「古典探求」への接続を十分考慮した編集作業を支えてくださる、現場感覚の豊かな多数の編集委員に参加いただけたことは、幸いである。
 
 教材の選び方については、定番教材をしっかりと配置し、同時に、明日を担う高校生の心に響く新教材を多数発掘した。そうした方向は、二年生から使う教科書になれば、さらに加速するはずだ。世界の新時代の様相、多様化する人間と平等社会への視点、いずれもこれまでの明治書院の見識に加えて、思い切った新たな冒険ともなっていると思う。教室での「言語活動」実践への丁寧なガイドも、工夫した。短文でも印象に残る現代の文章を添え、編者の執筆したコラムも充実させた。
 
 現代の文学の最先端におられると同時に、文学作品の読みの巧者でもある小川洋子さんも、作家委員として編集の歩みを支えてくださり、教科書にも素晴らしい文章を書きおろして下さった。
 
 端々まで使うひとへの配慮を込めたこれらの教科書が、現場で活躍しておられる先生方の共感を得て、全国の多くの生徒の手に届けられることを心から願っている。

 

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著者略歴

  1. 中島 国彦

    早稲田大学名誉教授。明治書院教科書編集委員。

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