大学生とつくる キャリア教育 「高校生記者」:髙橋 伸明先生にインタビュー(2/全3回)
「教員でない」からこそ
ーー企画の最初から最後まで、現役の大学生がメンターとして助言・補助をするんですよね?
「高校生記者」は、私が実習生として本校に関わらせて頂いた時から続けている企画で、今年度で五年目になります。
一年目は学生ということもあり、模索した部分が大きかったですが、本校に着任したことをきっかけに、二年目には「高校生記者」の基本デザインがほぼ出来上がりました。しかし、生徒から訪問候補として挙がる企業は大手企業ばかりなので、キャリアとしては大卒が前提となります。そこで三年目に、大学訪問を盛り込み、四年目の昨年度は、大学と企業の両方を訪問することで、大学進学と、その先の就職まで視野に入れた、まさにキャリアを考えるものとなりました。
この企画は毎年、大学生ボランティアを募って関わってもらっています。私が、立教大学を訪れ、授業を拝見し、学生の方とお話させていただいたのをきっかけに、昨年からは立教大学経営学部の「高大連携学生プロジェクト」(以下「高プロ」)さんに組織的に関わってもらっています。各グループに一名の大学生メンターがつきます。生徒たちは、最初のチームビルディングから、企業インタビュー後の発表資料をまとめるところまで、大学生と一緒に取り組みます。
授業中は大学生が中心に生徒に関わるからこそ、生徒の振り返りシートや、授業外の大学生のリーダーやメンターとの打ち合わせやフィードバックの機会はとても大切にしています。
ーーなぜ大学生に補助をお願いしようと考えられたのでしょうか。
私自身が学生時代、学習塾や家庭教師、現・NPO 法人Learning for All で勉強を教えるボランティアをさせて頂いていた経験もあり、生徒と学生の「化学反応」というか、その「可能性」を信じているところが根底にあります。例えば、大人である教員が「将来」について話をしても耳を貸さない生徒は少なくありません。それが、生徒たちの一、二年後の未来を生きる大学生の話は素直に聞くということが往々にしてあります。
これは、本校生徒の生活環境の影響もあるかもしれません。実際に、身近に大学生がいないという生徒は少なくありません。その分、アルバイトをしている生徒は多く、家庭の収入を助けている場合もあります。その意味で、他校の生徒に比べ、もしかしたら「お金の価値を分かりすぎている」と言えるかもしれません。お金で、手に入るものと入らないものがわかっているというか。そこには、物やサービスといった具体性があります。一方で、大学や学問といったことは、彼らには抽象的でイメージしづらい。そうなると大学に行くことや学問が将来的に役に立つ実感が湧かない。ましてや、せっかく大学生になったとしても、卒業後の希望の就職が保証されていない以上、大学に進学する意味は、彼らにとっては完全になくなってしまうわけです。それならば、高校卒業後はすぐに就職しようという思考になってしまう。それを否定するつもりはありません。ただ、この活動を通して「大学」や「大学生」というものを知った上で、「学問を修める場として大学という選択肢もある」という彼らの可能性を広げたいのです。
また、情報化社会で、ネット上でほとんどの情報が手に入ってしまう現在では、大学進学希望の生徒でさえも、オープンキャンパスに行かなかったりします。大学のホームページの情報だけでその大学の全てを「わかった」気になってしまう。
そんな高校生たちが、大学生とともに活動したり、大学生の皆さんにインタビューすることで、「大学生」像が徐々に構築されたり、大学という場やそこでの学びを一つ一つ彼らのリアルとして実感できている姿を見ると、この活動の意義を感じます。さらに、活動が終わった翌年度には、進路やキャリアについての発言や相談が多くなりました。
また、この活動は、大学生の方々にとっても意味のあるものであるように、常に意識しています。それは、大学生も夢や将来を考え、行動する渦中にいる存在だからです。例えば、テレビ局の報道フロアに入らせていただくことや、大手出版社で原稿を拝見することなど、就活生でさえできない体験があります。高校生と大学生という「社会との臨界点」にありながらも「まだ何者でもない」同士が並走して活動していくからこそ、毎回、こちらが予想もできない大きな発見と学びを獲得してくれています。
(第3回へ続く)