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国語科でSDGs(持続可能な開発目標)に取り組む

国語科でSDGs(持続可能な開発目標)に取り組む:上田祥子先生インタビュー

興味あることにとことん取り組む

<上田先生は、国際協力機構(以下、JICA)の教師海外研修に参加され、国語教材からSDGs(Sustainable Developement Goals:持続可能な開発目標)について考え、プレゼンテーションするという実践報告を発表されています。(実践報告については、記事最後のボタンよりご覧ください。)>

――まずは教師海外研修に参加されたきっかけを教えてください。

 私は、教員は「素晴らしいものを、自分を通して生徒に伝える〝媒介者〟」だと考えています。そのためには自分が成長し続けていなければならないと考え、アンテナは常に高く張るようにしています。また、教員は生徒にとって「身近な大人のロールモデル」でもありますので、「好きなこと」「興味のあること」に関して貪欲に取り組み、挑戦する姿勢を見せるよう心がけています。卒業生を出し、副担任となった昨年、「さて、今年は何に挑もうか」と考えました。そんな時にJICA教師海外研修を知り、手を挙げた、というところです。なぜJICA を選んだかというと、学校内で完結してしまうとどうしても鈍感になりがちなので、できれば学校教育から離れた視点を獲得したいと思ったからです。

――一般企業にお勤めのご経験もあるんですよね?

 家族が教員一家ということもあり、教員を志望していましたが、大学で教職を学んだ時に自分の人生経験が不足していることを痛感したんです。人にものを教える立場として、「このままでは説得力のない先生になってしまう」と恐怖を感じました。そのため、まずはきちんと、経済や「お金を稼ぐ」ということを理解したいと思い、大学卒業後は不動産関係の企業に就職しました。その後、結婚・出産を機に退職し、専業主婦をしていた時期もありましたが、ある時ママ友に「教師って本当に尊い仕事だと思うよ」と言われたことが大きな後押しとなり、いろいろな偶然や幸運が重なって、教員になることができました。育児をしながらのスタートでしたので、家族、ママ友、ご近所の方々、そして何よりも職場の同僚の理解や協力があってこその現在であり、本当に感謝してもし尽くせません。こうした様々な良い出会いを得られたことは本当にラッキーだと思います。

――実践報告でご紹介いただいたような国際理解教育は、普段の授業から取り入れているんですか?

 国際理解もそうですが、実社会との繋がりは常に意識し、可能な限り取り入れています。この実践に関していえば、「生物多様性とは何か」(福岡伸一)を授業で扱うことになり、JICAでの経験を生かした授業にすればより生徒の力になるのではないかと考えました。具体的には、入試小論文で頻出である「持続可能」「サステナブル」といったテーマの根本にあるSDGsの知識や、課題を発見する姿勢の獲得、そして日本人が苦手とする「発信力」を身に付けるといったことを単元目標にしました。生徒はこの世の中で生きていかねばならない、そのためにどういう力を育むべきなのか。教育の現場に「費用対効果」を持ち込んではいけないとは思うのですが、彼らの貴重な時間を預かって、何を提供するか、何を獲得させるか、我々は追求し続けなければいけないと思います。
 今は課題の多い世界ですが、「課題を発見し、解決のために行動しよう」という人を一〇〇人育てられたら、世界はきっと変わる。教員はそれができる仕事だと信じているんです。JICAの海外研修でタイに行って感じたのは、やはり日本は恵まれているということ。恵まれているからこそ、何かしなければ。その仲間が生徒たちだと思っています。宝ものです。

「国語」の可能性

 国語総合の最初の時間には、「国語には芸術的・文学的側面と論理学的側面がある」という話をします。論理学的側面はいわゆる入試やテストで評価される部分ですね。数値化して判定しやすいものです。
 一方、芸術的・文学的側面というものもあります。これは感じる力、感情的なものを指していて、例えば文学を読むことで追体験させてくれるものです。これは他者理解に大いに役立ちます。「虎になったことないから、李徴の気持ちが分かんない」で済ませてしまうと、例えばIS の自爆テロも「分かんない」からと思考停止して終わってしまうのです。
 一年次の国語総合で両者の基本をしっかり指導すると、その後は彼らが勝手に伸びていってくれます。「伸びるシステムをインストールする」と言っているのですが、例えば、評論を読む前に「かっこいい二字熟語を探す」という取り組みをやったりします。多くの高校生の話し言葉はオノマトペと形容詞で出来ているのに対し、評論は抽象度の高い熟語で書かれている。だから、読みづらい。そこで、日常使っている話し言葉を二字熟語に置きかえさせます。評論と日常生活を「往還」させるんです。授業でその取り組みを行うと、彼らは日常生活でも自然と「かっこいい二字熟語」を探し始めるんです。そうして獲得した新しい言葉(=概念)を足掛かりにして、どんどん評論が読めるレベルに近づいていく。あとは情報を与えればもう勝手に伸びていきます。今回の実践でも、評論教材とSDGsという情報を与えたことで、生徒たちはこちらの予想をはるかに超えて変化しました。成果が出るのにある程度時間はかかることもありますが、その子の人生に寄与したのではないかと感じています。
 国語は言うまでもなく全ての教養の基盤になる教科です。ですからもっと他教科の先生方とも連携し、様々なテーマを取り入れて生徒に還元したいですし、国語科の先生方とも、「国語ってこんなことも、あんなこともできるよ!」という思いを共有したいですね。「国語」の可能性は無限大だと思います。今回の実践でも、国語科はもちろんのこと、特に社会科や生物科の先生方にもご協力いただきました。本校はチャレンジ精神旺盛な先生が多く、議論しながらいろいろなことを試せるのが、環境としてとても恵まれていると感じています。先生方と議論して、より高い到達点にするにはどうしたらよいかを研究し、統一していく。その過程を経ることで、確実に生徒の国語力向上を達成できたと実感しています。

リスクテイカーたれ

――先生が生徒さんに一番伝えたいことは何ですか?

 「高校生は、リスクテイカーたれ」ですね。手を伸ばさないと関係性は生まれない。失敗や傷つくリスクを恐れずどんどん手を伸ばして、挑戦していってほしいです。好きなことは、それがどうしたらお金を生むかまで突き詰めて、仕事にしなさいと言っています。
 彼らに必要なものは、勇気と行動。じゃあ、勇気を出して行動するために何が必要かというと、情報理解・処理能力のベースとなる教養、つまり「学ぶこと」です。リスクの内容を学べば、リスクでなくなるかもしれない。そこで、学問は無力じゃないと信じているんです。学び続ける姿勢を育めれば、何か困難にぶつかっても、その時に学べばいい。そうなれば、もう怖いものなしです。私は、その手助けをしたいと思っています。

(聞き手:(株)明治書院 三樹蘭

 


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著者略歴

  1. 上田 祥子

    埼玉県立所沢北高等学校教諭。教員の家庭に生まれ育ち、教育学部に進学。大学では上代文学を専攻し、卒業後は一般企業に就職。結婚・出産・専業主婦を経て、教職に。3 姉妹の母。

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