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国語科でSDGs(持続可能な開発目標)に取り組む

他者に貢献するプレゼンテーションをしよう ~ SDGsと課題発見 ~:埼玉県立所沢北高等学校

1 単元の目標

  • ・国際的な課題(SDGs)について理解し、それについて論じられた評論を正確に読解する。
  • ・自ら課題を発見する力を養う。
  • ・効果的な言葉を用い、他者に自身の意見を伝える。
  • ・他者の意見を理解し、それについて考察する。
  • ・学習を通しての自身の変容を言語化する。
  • ・自身の身近な問題意識や日々の学びと地球規模の課題との関連を考察し、それを相互に発表し合うことによって、様々な課題に目を向け、主体的に行動することについて考察する姿勢を獲得する。

2 単元の指導について

(1)教材感

 「生物多様性とは何か」福岡伸一

 本単元では地球規模の課題に対して問題提起、提言が行われている良質な評論である本教材を読解し、まず筆者の主張を正確に理解したうえで、その主張がSDGsとどう関連しているのかを考察させる。そのうえで、自らが問題と感じることを普段の生活の中から発見し、それにまつわる画像をもとに、その問題について、分かりやすい言葉でプレゼンテーションできるよう表現の基礎をサポートしたい。またその課題と地球規模の課題の繋がりを意識する姿勢を獲得させられるような構成を検討した。
 本単元を通して、テキストを正確に読解する力、課題を発見する力、表現する力、国際的な課題に目を向ける素地、自身のキャリアと国際貢献を関連付けて考える姿勢を育てたい。

(2)児童生徒観

 本年度新設された理数科一期生であり、一年生の他のクラスよりも一単位少ない四単位の授業を行っている。国語に対して苦手意識を持つ生徒もいるが、常に前向きに積極的に授業に取り組む生徒が多い。他者とコミュニケーションを取ることを苦手とする生徒が一定数いるが、それを周囲がサポートし、学び合い支え合う雰囲気ができている。
将来サイエンスの分野への進路、キャリアを志望している生徒に対し、社会的、国際的視点を獲得させたいと考えている。

(3)指導観

 タイでの研修の中で、日タイの生徒同士の交流に参加し、日本の生徒のプレゼン発表を観る機会を得ることができた。しかし、その発信力の乏しさに衝撃を受け、問題意識を非常に感じたため、生徒に「発信する力」を獲得させたいと考えこのような単元構成を考えた。

 募金や寄付、ボランティア。それも大変すばらしい行動であるが、生徒一人一人の問題意識、日々の学びそして進路実現が今後のサステナブルな社会に寄与、貢献していく可能性に気づかせ、自身のキャリア形成に対する前向きな姿勢や、社会貢献に対する志を涵養できるような指導、実践が行えるよう配慮した。

3 授業事例の紹介

【他者に貢献するプレゼンテーションをしよう〜SDGsと課題発見〜】

(1)指導案

(ア)本時の目標

  1. ①他者に貢献するプレゼンテーションをしよう。
  2. ②相手のプレゼンテーションを傾聴し的確に評価しよう。
  3. ③自身の変容を言語化しよう。


(イ)指導のポイント

  • ・初めてのプレゼンテーションを円滑に行なうための環境づくりをする。
  • ・国際的な問題に興味を持ち、その興味と自身の学びとを繋げていくきっかけになるような指導をする。
  • ・自身の気づき、変容を言語化できるよう、スライド、話し合い活動を入れて工夫する。


(ウ)本時の展開

過程・時間 指導内容 学習活動 指導形態 指導上の留意点 評価( 評価規準・評価方法)
3分 ルーティン 古典文法事項の確認 一斉 緊張感を持って取り組ませる。  
5分 導入 単元の振り返り及び本時の目標確認

国語の窓2号 図1

一斉 前回までの授業で用いたスライドを使用し学習内容を振り返らせるとともに、本時の課題を明確に理解させる。

国語の窓2号 図2

・本時の目標を理解しようとしている。
・国際的な課題(SDGs)について理解している。

国語の窓2号 図3

15
グループ内プレゼン 自分の発見した課題を他者に伝える(その課題とSDGsとの関連を意識する)。
※グループ内(3人)でプレゼンテーション2分、相互評価2分を行う。
※この活動ではメモを取りながら聞く。

国語の窓2号 図4

時間管理を行い、適宜机間指導を行う。
「話し言葉」でのプレゼンテーションを指導する。

国語の窓2号 図5

・5項目(①影響力(他者への貢献)②内容③声の大きさ④パフォーマンス⑤説得力)の規準を意識してプレゼンテーションに取り組んでいる。

国語の窓2号 図6

15
教室内プレゼン 教室内で最低2人にプレゼンテーションし、評価してもらう。 全体 手持無沙汰な生徒はいないか注意する。
対話に参加できない生徒に対するフォロー。
・効果的な言葉を用い、他者に自身の意見を伝えている。
・メモを取りながら傾聴している。
・積極的に相互評価を行っている。
・積極的にプレゼンテーションしている。
・傾聴し的確に評価している。
5分 全体共有 数名の生徒に全体にプレゼンテーションしてもらい、内容について各班で掘り下げる。 一斉 拍手で終わらせず、グループ内で深められるよう注意する。
10
まとめ・振り返り 本時及び単元のまとめ・振り返り 一斉   ・自身の変容、気づきについて明確に言語化している。

 

 (2)授業の振り返り

 コミュニケーションが苦手な生徒も多い中で、クラス全員が二人以上に自身の意見をプレゼンテーションできるのかどうか、という点が不安要素であったが、生徒一人一人が質の高い調査を行い、見せ方、話し方、身振り手振りの工夫を行っていた。また相互にサポートし合いながら積極的に活動することができており、予想をはるかに超えた生徒の力に圧倒された。
 最終的に「自分の日々の学びや大学進学後の研究などが、いつか世界を大きく変えるかもしれない」ということへの気づきを促せるような授業を目標としていたが、振り返りやその後の授業内での姿勢の変化(積極性、主体性、読書内容の変化)を勘案すると、十分達成できたと考える。
 また、本実践を行うにあたり、世界史の大橋雄一教諭が「共有地の悲劇」に関する知識やグローバル化のきっかけとなる歴史的事象の知識を、そして、生物の淵本麻里子教諭が、生態系や生物多様性に関する知識をそれぞれの授業でサポートしてくださった。
 淵本教諭においては公開授業参観後、生物という教科においても評価の対象となる内容と判断し、合同授業として全体プレゼンの場を設けてくれた。今後益々重要となる科目横断型、教科連携型の実践を行うことができたことも今後に向け大きな一歩となった。

▼マンションの断水で困った経験から水の重要性に気づき、安全な水にアクセスできない人々の存在について言及した生徒の準備した画像

国語の窓2号掲載画像

▼台風やゲリラ豪雨の増加から地球全体の気候変動について言及した生徒が準備した画像

国語の窓2号より

国語の窓2号より

4 評価規準

観点 関心・意欲・態度 思考・判断・表現 技能 知識・理解
評価規準 自分の考えを適切な言葉で表現
しようとしている。
他者の意見を傾聴しようとして
いる。
相手の考えや異なる考えを尊重
し、自分の考えを深める。自分
の考えをまとめ適切な言葉で表
現できる。
相手に分かりやすく伝わるよう
工夫することができる。
相手の意見の良い部分、改善点
を的確に指摘することができる。
自身の意見を補完する資料を適
切に用いて、論理の構成を工夫
できる。
評価方法 ・机間指導における観察 ・プリント ・発表 ・レジュメ

5 単元の構成

時限 小単元名 学習のねらい 授業内容
日本の国際協力と国際的な課題 ・日本の開発援助や世界的課題に興味を持つ。 ・タイにおけるJICAの事業を例として示し、日本の国際協力の在り方について知る。
・現在、世界が抱える諸問題及び国連の示している17のグローバル目標「SDGs」について学ぶ。
2〜3 国際的な課題について書かれた評論を正しく読解する ・テキストを正確に読解し、筆者の主張を理解する。
・筆者の問題意識が「SDGs」のどの分野に該当するか確認する。
・教材の読解を通して、生物の多様性が失われることが地球環境に及ぼす影響を知り、筆者が「生命観と環境観のパラダイムシフト」の必要性や「分際を忘れたヒトという種」に対して強い問題意識を持っていることを理解する。
プレゼンテーションについて学ぶ ・筆者の主張と関連する具体例について考える。
・分かりやすい言葉で説明する。
・筆者の主張とSDGs」との関連に気づく。
・効果的なプレゼンテーションについて学ぶ

国語の窓2号 図7

・「国家間のエゴ」や「効率思考」によって生物多様性が失われてしまった例について調べてきた内容を話し合う。
・筆者の主張と「SDGs」との関連について考察する。
・「プレゼンテーション」について学ぶ。
・17のグローバル目標に関連する「問題」を設定し(自身が問題と考える現象がどの目標に関連するか勘案し)その内容についてプレゼンテーションの準備をする。

国語の窓2号 図8


(本時)
他者に貢献するプレゼンテーションをしよう
〜SDGsと課題発見〜
・自身の問題意識が「SDGs」のどの分野に該当するのかを踏まえたうえで、効果的な言葉で自身の意見を表明する。
・話し手がどのような問題意識を持っているのかメモをし、正確に理解する。
・プレゼンの内容を①影響力(他者への貢献)②内容③声の大きさ④パフォーマンス⑤説得力という評価規準で相互に評価する。
ルーティン(3分)
単元の振り返り及び本時の目標の確認(5分)
グループ(3人)でプレゼンテーションし合う(10分)
教室内で最低2人にプレゼンテーションする(
15分)
クロストーク(5分)
クロストークで出た「課題」についてグループで掘り下げる(5分)
本時及び単元のまとめ(5分)
本時の振り返り(5分)
6〜7 全員の前でプレゼンテーションする ・クラスメイトの問題意識を共有する。
・全体に伝わるプレゼンテーションをする。
・本単元の振り返り。
・「SDGs」と関連した自身のテーマを全体に発表し、相互評価する。
・本単元を振り返り、まとめとして文章にする。
・発表する。

 

(3)使用教材


(4)参考資料等

 

6 単元をとおした児童生徒の反応/変化

 今回の単元を通して生徒の変化を大きく感じた。特に顕著だったのは、振り返りの感想において「何かを変えていける人間になりたい」「手助けできる人間になりたい」「もっと学びたい」という意見がほぼ共通していたことと、授業への取り組み姿勢が(古文漢文も含め)積極的かつ主体的になったことである。以下いくつか生徒の感想を記載する。

  • ・少し前までは空爆や内戦のニュースを見ても何も感じなかったが、今日までの一週間はやたらと深く考えるようになった。
  • ・発展途上国の女性差別はひどいと思ったが、女性差別に異議を唱える人がいたから今の日本がある。私たちが今何をやってもすぐには変わらないかもしれないが、私たちが死んだあと少しでも良くなることをしたい。そのために、今この世界のことをもっと知っていかなくてはならないと思う。だから一生懸命勉強して大学に行って、何かを変えられる人になりたい。
  • ・自分にできることなんて見つけられないと思っていたが、それは見て見ないふりをしているだけなのだと気づかされた。
  • ・いろいろな人のプレゼンを聞く中で、現状把握から問題発見の段階にステップアップできた。また、意識をもって生活すれば目標達成に近づくことができるということに気づいた。様々な切り口からSDGsの目標について考えることが出来、少し進化出来たなと思う。なんのために国語を学ぶのか分かった気がする。
  • ・「知る」ということは先進国に生きる人間の義務だと思った。


 予想を超えた反応、変化が見られ、授業者として身の引き締まる思いがした。ここで得た気づきを実際に行動に移せるような実践、また自身のキャリア形成意識につなげる実践に挑み、国際人として生き抜いていける力、国際社会に貢献しようと思う志を獲得できるようサポートしていきたい。

7 教師海外研修に参加して

 私は「幸せでいるための国語力とは」「生存率を上げるための国語力とは」というテーマを持って教職に就き、実践を行って来たが、「拡大や成長は必ずしも個人の幸せと結びつかない」「転換期を迎えている現代社会での幸せな人生とは何か」といった、根本的な問いも常に孕んでいる日々であった。
 そんな中で、タイでの10日間の研修の機会を得、無償資金協力、有償資金協力、技術開発プロジェクト等、様々な現場を視察し日本の国際協力、貢献の現状を学び、スラムで暮らす人々の生活に直接触れる機会を得ることができたことで、様々な示唆を得られた。
 また、国際協力の現場で活躍している日本人や現地の方々、チームメンバーと出会い、想いや意見、経験を共有することで、観光では得られない深い学びを得られ、教員として、一人の人間としてこれからどのように生きていくべきか考える契機となった。
 中でも、タイでの研修の中で、平均的な日本人のもつ教養・能力やモラルの高さ、そしてその層の厚さは圧倒的な強みであることを実感した。
 そして勤務校の生徒のような、自身の進路に対して前向きな生徒たちに、グローバルリーダーとしての矜持心を育むことができたら、世界はより良い方向に変わるかもしれない、そんな希望を強く持った。
 資本主義は近代で最もうまくいったシステムだが、そのために、現在、大規模な経済破綻や格差の拡大といった政治的な問題も生じている。サステナブルな社会を実現するためには全く新しいイノベーションを起こすことが必須であり、全世界的な喫緊の課題といえるだろう。この研修を通して、志を持ち、国際的な視点で物事を考え、他者と協働的に問題を解決し、イノベーションを起こしていけるような生徒を育てたいという気持ちを強くした。得られた機会に感謝し、日々真摯に教育活動を行っていく所存である。

※「国語科でSDGsに取り組む」指導案(明治書院バージョン)を明治書院ホームページにて配信中です。

本稿は、
JICA東京「平成28年度教師海外研修報告書(※1)」に掲載された実践報告を編集し直したものです。
教師海外研修はじめ学校で活用できるJICAプログラムは「先生のお役立ちサイト(※2)」に掲載されています。

※1「JICA東京 28 授業実践」で検索して下さい。
※2「JICA 先生のお役立ち」で検索して下さい。

 


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著者略歴

  1. 上田 祥子

    埼玉県立所沢北高等学校教諭。教員の家庭に生まれ育ち、教育学部に進学。大学では上代文学を専攻し、卒業後は一般企業に就職。結婚・出産・専業主婦を経て、教職に。3 姉妹の母。

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