web国語の窓

明治書院の国語教育webマガジン

MENU

教室からの報告『コインは円形である』

教室からの報告『コインは円形である』(3/全4回)

(明治大学付属中野中学・高等学校教諭 岸 洋輔)

『コインは円形である』をどう教えたか

一、授業計画(4時間配当)

時限 学習範囲 学習目標 指導上の留意点
全文 【導入】
1、我々は、ものを一面からでしかとらえていないことを知る。
2、国語の基礎学力を身に付ける。(漢字や語の意味の確認)
・教材への興味を喚起させる話題を心掛ける。
・読解への準備を行う。
第一段落 【展開1】
1、「コインは長方形だ」という表現が、なぜ正しいのかを知る。
2、その結論に至る道筋を、接続詞に着目して、丁寧に読み取る。
・「コインは長方形だ」という表現が、レトリックである点に注意させる。
第二段落 【展開2】
1、「コインは長方形だ」と表現することの意味を、読み取る。
2、「精神的硬化現象」の意味を、身近な例によって説明する。
・認識と表現との関係を、表現を中心に読み取らせる。
・多くの例を発表させる。
第三段落 【まとめ】
1、筆者の主張する「レトリック」の意味を、的確につかむ。
2、⟨思いやり⟩とレトリックとの関係について、読み取る。
・「レトリック」の本来の意味とは多少異なることに注意させて、読み取らせる。

 

二、各時間の内容

【第一時限目】・導入

[学習目標1] 我々は物を一面からでしかとらえていないことを知る。

学習内容 指導上の留意点
質問(1)
「地球を持ち上げるには、どうしたらよいのだろうか。」
解答例
逆立ちすればよい。⇒宇宙に出れば、上下はない。従って、南極に行かずとも地球を持ち上げた姿に見えるはずだ。南極にいても北極にいても、空は上にある。
古典的なトンチ問題なので、答えを知っている生徒もいよう。できるだけ分かりやすい問題から始める。北極で逆立ちした場合、どうなるかを考えさせてみるとよい。
質問(2)
「一本百円のペンを、三本百円で買った。いくら儲けたか。そうなる理由を言葉で説明してみよう。」
解答例
「二百円。三百円で買うべきところを百円ですんだから。」「二百円。買った三本を一本百円で売ればよい。」「百円。一本は自分で使い、残り二本を一本百円で売る。」
ほとんどの生徒は、最初の答えを言う。算数の問題でも、言葉で説明するとなると、苦労する。いろいろな考え方のあることに気付かせる。他の答えもあるはずであり、できるだけ多くの答えを引き出す。
質問(3)
「(配布した)プリントにある図形・文字・絵は、それぞれどのように見えるか。」(図1の資料を答えを消して印刷し、全員に配布しておく。
解答例
①から⑥まで、資料に付記してあるのを参照。
これは、人間の目がごまかされる例として、有名なもの。自分の目でとらえたものは、いつでも真実である、という固定観念を打ち破るのに、よい資料となる。

↑(図1)

 

[学習目標2]  国語の基礎学力を身に付ける。(漢字や語の意味の確認)

学習内容 指導上の留意点
①、全体を分けて、音読する。
(1)、~四三ページ1行まで。
(2)、~四四ページ6行まで。
(3)、~四六ページ3行まで。
(4)、~四七ページ4行まで。
(5)、~四八ページ3行まで。
(6)、~終わりまで。
①、ここで示した分け方だと、長さがまちまちになる。内容上の切れ目を重視したからである。長さを均等にするのは意味がない。音読時の姿勢、声量等に注意させたい。
②、意味の分からない言葉を、質問させる。
(1)、前後の文脈から、意味を考えさせ、発表させる。
(2)、辞書を引かせ、この文脈に合う意味を選ばせる。
(3)、辞書に載っていない言葉は、再度話し合わせる。
②、辞書は、毎時間必ず用意させる。必要なときは、いつでもすぐに使えるようにするためである。生徒からの質問のない場合はこちらから二、三質問してみる。


導入のポイント

 「学習目標1」に関しては、三つの質問すべてを行う必要はない。私は、三つのうち二つを組み合わせて、クラスごとで異なった三通りの導入方法を試みた。私が心掛けたのは、遊び感覚になってもよいから、教材に対する興味を喚起させることと、自由に発言できる雰囲気を作り上げることとの、二つである。質問に関わる雑談であれば、多少騒がしくなっても黙認し、生徒の考えようという姿勢に水を差してしまうことがないように配慮した。ただ単に答えを導き出すことより、あれやこれやいろいろと考えさせることの方が重要である。

 「学習目標2」に関しては、目標1とは逆に、音読の姿勢や他の生徒の聞く態度に注意を払い、相手が聞きやすい音読になるように指示をした。それを聞いている生徒の方にも注意をした。②については、授業で扱う必要はない。時間が足りなければ、家庭での学習にしてよいが、皆で取り組むことの意味も十分ある。

 

【第二時限目】・展開1(第一段落の読解)

学習内容 指導上の留意点
①、コインは円形だ、という文を承認するのはなぜか。
⇒自然なコインの位置と自然な視線の角度から円形に見えるから。
難易度は[易]。コインを丸いものと見なし(認識)、十円玉と言う(表現)。
②、「それ」(四三ページ1行)の指示内容は、何か。
⇒コインは円形だ、という文。
[?]。この文末の「思う」の主語を何と考えるかで、答えが二つに分かれる。
③、☆「異様な発言」に聞こえるのは、なぜか。
⇒ただ単に、⟨長方形の面⟩からの接触が少ないから。
[難]。これは主題に関わる問題なので、解答例にこだわらず、自由に発言させたい。
④、「コインは長方形だ」という表現は正しいとする根拠は何か。
⇒自動販売機のコインの投入口が長方形であること。
 [易]。駅の自動販売機の中には、円形のものがない訳ではない。
⑤、コインは、「円形だ」と「長方形だ」とが同格なのは、なぜか。
⇒どちらもコインの一面を正しく表現したものであり、なおかつどちらもコインの一面しか表現していないから。
[中]。「コインは長方形だ」と表現することで、このことが認識される点に注意する。「レトリック感覚」につながる。
⑥、第一段落にある接続詞をすべて挙げ、その種類を述べよ。
⇒そして(累加)、つまり(説明)、あるいは(選択)、そこで(順接)、けれども(逆接)、そして(累加)、しかし(逆接)、しかし(逆接)、また(並立・累加)、そして(累加)。
[中]。答えは、本文中に出てくる順序にした。繰り返し出てくる接続詞もそのまま挙げた。どこにあるかは、本文で確認してほしい。結論にたどりつくまでの筋道を追う手掛かりにさせたい。

板書事項「コインは円形である」

 

【第三時限目】・展開2(第二段落の読解)

学習内容 指導上の留意点
①、人間の認識一般の有限性について、具体的に説明せよ。
⇒例えば、コインの形を普通には円形としかとらえないこと。
[中]。友達との話に夢中になると回りの物音が聞こえないことも、その一つである。
②、☆「ある位置にあぐらをかいたまま」とは、どういうことか。
⇒自分の物の見方、考え方からしかとらえようとしないこと。
[難]。「あぐらをかく」という慣用表現の意味を確認しておく必要がある。
③、「コインは長方形だ」が正しいと気付くためには、どうするか。
⇒自分の認識、表現は有限で一面的だと、いつも承知する。
[易]。「コインは長方形だ」と表現することも可能ではないか、と思うことである。
④、☆「手で触ることのできない抽象的存在」とは、何か。
⇒人の性格や心情、組織の雰囲気や全体像など。
 [中]。他にもいろいろ挙がるが、次の段落と関わるこの二つを先ず押さえさせる。

板書事項「コインは円形である」 

【解説】
 この段落でのポイントは、身近な例をできるだけ多く挙げさせることである。このことが、この段落を的確に読み取らせることにつながる。いろいろなことに目を向けさせて、活発に発言させたい。また、人間の認識・表現の有限性を打ち破るのに必要なものとして、「コインは長方形だ」という表現があることにも、気付かせたい。

 

【第四時限目】・まとめ(第三段落の読解)

学習内容 指導上の留意点
①、☆「認識と言語表現の避け難い一面性」とは、どんなことか。
⇒日常において、人間は物の一面しかとらえられないこと。
[易]。前時の復習である。第二段落の内容を踏まえて、答えさせる。
②、「レトリックは発見的認識への努力に近い」を説明せよ。
⇒別な視点から見ようとすることが、発見につながること。
[難]。「レトリックの積極的な意義」とは何か、という質問と同じ答えになる。
③、☆「人と人とが理解し合うこと」が容易ではないのはなぜか。
⇒今日の社会は、物の見方が多様化した社会であるから。
[中]。本文の言葉で答えるのは易しいが、自分の言葉で表現するのは難しいか。
④、レトリック感覚が人の理解に必要なのは、なぜか。
⇒人の理解には、別(相手)の視点に立つことが大切だから。
[易]。レトリック感覚とは、自分の視点から離れることだ、ということを知る。

板書事項「コインは円形である」

【解説】
 創造力と想像力とをこのように図式化してしまうのは、少し強引である。筆者は、必ずしもはっきりと区別しているわけではない。ただ、こうした方が理解させやすい。授業ではこの点は説明した。
 残りの時間で、学習の手引きを時間を決めて解かせた。また、教科書に準拠した問題集の問題を解答することを、宿題として課した。

(続く)

 

新 高等学校 国語総合

※『コインは円形である』(佐藤信夫)は、『新 高等学校 国語総合』に採録しています。
ものの見方、認識について考える。相互理解のためにこそ、レトリック感覚が必要であると説く評論教材です。

 

タグ

バックナンバー

関連書籍

ランキング

お知らせ

  1. 明治書院 社長ブログ
  2. 明治書院
  3. 広告バナー
閉じる