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【著者インタビュー】「憲法への招待」著者:渋谷秀樹先生

【著者インタビュー】「憲法への招待」著者:渋谷秀樹先生(1/全5回)

 昨年の動画配信で大好評だった、「憲法への招待」の著者・渋谷秀樹先生のロングインタビューの内容を全5回の連載にまとめました。

※『新 精選 現代文B』(明治書院)の採録教材

第1回「高校の先生や高校生に伝えたいこと」
第2回「法学における《解釈》の限界と可能性」
第3回「国語科に期待されること」
第4回「法律の現在とこれから」
第5回「法学部進学指導について」


第1回「高校の先生や高校生に伝えたいこと」

ーー本日は、法学者の渋谷秀樹先生にお話を伺いたいと思います。渋谷先生は日本国憲法を現代の社会情勢に即して解釈し、詳細な研究をされています。渋谷先生、本日はどうぞよろしくお願いいたします。

 こちらこそよろしくお願いします。


ーーそれでは、渋谷先生が高校の先生方、また高校生の皆さんに伝えたいこと、ありましたら教えてください。

 そうですね。私はこれまで大学で教えてきましたので、わりと(高校生に)近い年齢の方とはお話ししていたと思います。法学部の学生が中心ですが、法学は高校の科目でいうと国語が一番近いと考えております。

 なぜならば、憲法は日本語で書いてありますし、裁判所法(第七四条)には、「裁判所では、日本語を用いる」と書いてあります。だから、法については日本語を正確に理解してそれを使いこなせる力が一番大事なんですね。

 高校生の皆さんは、小学校以来国語の勉強もされていて日本語もかなり習熟されていると思います。言葉は非常に便利で、昔の人が考えていることも言葉によって知ることができます。言葉は、昔の人が考えたこと、あるいは知ったことを伝える力を持っています。

 法律も、そのベースになる日本語をしっかり勉強する。たとえば、言葉の意味、文法をしっかり理解すれば、法律を勉強するときもそれほど難しくなく勉強できるようになると思います。

 憲法は103カ条しかない非常にシンプルなものですが、その日本語にいろんなことが凝縮されています。それを理解するときに、日本語の基本的な知識で理解できるところもあるし、専門的な知識が必要になる場合もあります。一番大事なのは、言葉に敏感になること、たとえば漢字を見た時に、そもそもこれはどういう意味なのかともう一度考え直す。ひょっとしたら、一般的に使われている言葉と違う意味で使われていることもあるんじゃないかと考えることが大事です。

 日本国憲法の第一九条には、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。という規定があって、そこで使われる言葉について質問されることがあります。「良心というのは道徳的に良いことに限定されるんですか」、「道徳的にいけないこと、例えばあの人が嫌いですとか、そういう言っちゃいけないと言われることを考えることは保障されないんですか」と、聞かれることがあります。「いやいやそれは違いますよ」と答えます。憲法でいう良心の不可侵とは、人は心の中で何を考えても、何を思っていても、それが外部に出て他の人を傷つけない限りは、それは自由ということを保障しているのです。

 ある特定の言葉を見た時に、思い込みでその意味を理解してしまうのは非常に危険です。そういう場合には、もうちょっと考える。一旦考えるということ。それから、侵してはならないと書いてあるから、侵害してはいけないということは当然わかると思うのです。それほど難しいことじゃないけれども、それはどういうことなんだろう、と言葉を正確に理解することが大事です。

 で、もう一点。今度は逆に、我々専門家でも実は間違うことがあります。たとえば、皆さんが直接関係する、憲法第二六条の教育を受ける権利に関する条文で、「義務教育は、これを無償とする。」という規定が第二六条の二項にあります。そこに、すべての国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。という規定があります。ここで子女という言葉が使われていますね。ちょっと前に有名な民法の先生がある雑誌に、憲法にも非常に差別的な語が入っていて、「子女」というのがその例だとお書きになっています。おそらくその先生は、「子女」という言葉を、上から目線で「おんなこども」という意味とたぶん理解されたんでしょう。でもこの言葉を普通の国語辞書でひくと、「子女」というのは息子の「子」と息女(娘)の「女」、息子と息女の下の二文字の子と女を取って「子女」いうと書かれています。

 自分の思い込みによって言葉を理解するのは非常に危険で、これは法律だけじゃなくて、いろんなものを読むときにも大事だと思います。だから高校時代までの国語教育で大事なのは、言葉の持つ意味を正確に理解し、ひょっとしたら自分は間違っているんじゃないかなと考えながら言葉を見ていくこと。文章を作るとか、文章を書くのは大事なことですが、まずその文章を構成する要素の「単語」、断片の言葉自体を正確に理解する癖をつける、習慣をつける、ということに意を注いで欲しいと思います。

 法というのは、言葉で世の中を動かしているというところがあります。言葉を正確に読み取るということが大事だから国語の教科書に評論という難しい内容の分野が入っていると思います。言葉が人を動かしているからこそ、日本語、国語を勉強することが大事だと思います。

 日本では学校で法律の教育をしないので、なんとなく法律というのは自分たちの生活を縛るものというイメージがあると思いますが、見方を変えると、実は自分たちの暮らしを守るもので、守るものは一体どういうものなのかを知る。つまり言葉として自分を守る手段が作られていることを知って、よく考えるようになって欲しいと思っています。

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著者略歴

  1. 渋谷 秀樹

    昭和三十(一九五五)年~。法学者。専門は憲法学。兵庫県生まれ。憲法に造詣が深い。日本国憲法を、現代の社会状況に即して解釈し、詳細な研究をしている。

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