「己」を問う──「古典探究」が目指す資質・能力と授業観・評価観──(藤森裕治)
雑誌『日本語学』2023年3月春号より特集記事の一部を紹介します!
–第5回–
「己」を問う
──「古典探究」が目指す資質・能力と授業観・評価観──
藤森裕治(文教大学教授)
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1 「古典探究」の資質・能力とカリキュラム
[1]古典を探究か古典で探究か
本稿の議論に先立ち、「古典探究」という科目名の意味するところについて考えてみたい。この科目名は、「古典」という名詞と「探究(する)」という動詞的用法の名詞とが結合した複合名詞である。このような語構成では冒頭の名詞は主語にならず、基本的に目的格となる(伊藤・杉岡2002)。つまり「古典探究」とは、「古典を探究する」科目であることを意味する。
しかしながら、この種の複合名詞にはもう1つの意味がある。それは、冒頭の名詞が後ろにある名詞を副詞的に修飾することによって生まれる意味である。例えば「イギリス旅行」と「バス旅行」とを比べてみよう。前者は「イギリスを旅行すること」だが、後者は「バスで旅行すること」を意味する。後者のような副詞的修飾関係で「古典探究」をとらえるのであれば、この科目は「古典で探究する」科目という認識になる。前者の意味では探究の対象そのものが「古典」であるのに対し、後者の意味では、ある課題を探究するのに「古典」というジャンルを使う科目であることを指す。
このどちらを意味するのか、文部科学省(2018)『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編』にある科目新設の理由から検討してみよう。
「伝統的な言語文化に関する理解」をより深めるため,ジャンルとしての古典を学習対象とし,古典を主体的に読み深めることを通して伝統と文化の基盤としての古典の重要性を理解し,自分と自分を取り巻く社会にとっての古典の意義や価値について探究する資質・能力の育成を重視して新設した選択科目である。(p.246)
この記述では、学習対象が古典であると明示され、「言語文化」で培った…
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