アカデミックスキルズの基礎—高大接続の観点から—(第2回「問題意識をもった切っ掛け」)
2023年3月31日に開催した、「明治書院オンライン研修会」の内容を、全7回の連載にまとめました。
第1回「自己紹介」
第2回「問題意識をもった切っ掛け」
第3回「書くことのベースライン(アカデミックスキルズ)」
第4回「書き方をどのように教えるか—1つの案—」
第5回「対話の必要性」
第6回「まとめ(対話から創造へ)」
第7回「質疑応答」
第2回 問題意識をもった切っ掛け
ここからが本題なのですが、問題意識を持ったきっかけとして、大学生の読み書きの実態について少しお話をしたいと思います。このあたりは、高校3年生と大差ないということで予想できるんじゃないかと思うのですが、いわゆる「一流大学に進んでも、レポートを書けない学生は『以外にも』多い」ということです。…こういう誤字をするんです。てにをはを間違える、段落一字下げをしない、主述関係が滅茶苦茶、接続詞を知らない、など。かなりレポートを書けない学生さんが多いです。これは文系だとか理系だからというよりも全体的に書けない学生さんが多いんですね。もちろん、書き方を知ると書けるようになる学生さんも一定数います。授業中に木下是男『理科系の作文技術』(中公新書)を紹介すると、「なんか書けるようになりました」と言う学生さんもいるんですね。一方で、書き方を教えてもなかなか書けない学生も一定数います。特に「書く内容を探せない」という学生さんがいることはちょっと驚くべきことかもしれません。「読書量がかなりく少ないのかな」と危惧しているところです。
これに対してどう対処したのかと言いますと、まず、楽な書き方として「アカデミックライティング」を教えることにしました。形式がわかると書けるという学生さんは非常に多いです。
「書く内容を探す」ことに対しては、対話を通して書く内容をふくらませるということをさせました。最後に、そもそも「言葉を知らない」ことについて、これは本当に悩ましいところです。高校の先生方も困ってるんじゃないかと思うんですけども、ツイッターやブログは読んでいるが、本は読んでないということですね。しかし私は、書き方を知れば少し読み方が知れて、結果として多少読んでもらえるかなという感覚を持っております。
実際に読書の時間は、「第56回学生生活実態調査」(2020年)によると、「大学生の一日の読書時間」はゼロ分がほぼ半分なんですね。東工大生だと今まで一冊の本も読んだことないっていう学生は珍しくはありません。読み書きが不得手な学生さんが高校で、「じゃあ理工系に行ったらいいんじゃないの?」という指導を受けているのかもしれません。でも、これは本当に大きな勘違いです。自然科学系だから実験だけすれば良いというのは、若い頃だけなんですね。年齢や地位が上がるにつれて、学術論文や企業に提出する報告書、あるいはプロジェクトの申請書を執筆することの方が徐々に重要になってきます。これを知らずに、理工系を進路に選んで大学院に行って、論文が全然書けないということが結構起きるんですね。とにかく作文技術は重要なんです。早い段階から、書くことは重要だということをぜひ強調していただきたいと思います。「理系だから国語はいらない」とか、そういうことを言っている学生には教えてあげてください。
では、本当にそうなのか、数値を示します。2013年度の研究者1名あたりの論文執筆ページ数というものを、いわゆる理工系しかない東工大と、文系の一橋大の数値で比べたものです。これは学生に、こんなに書くんだよということを納得させるために、三人の教員で予備的に調査したものですので,数字の正確性は問わないで頂きたい。とはいえ,理系の方は27.5ページ、一橋文系の方は21ページです。ご覧の通り、理系だから書かないなんてのは本当にうそっぱちですので(笑)。最低でもこれくらい書くんですね。本当に国語が重要、読むこと書くことが本当に重要なスキルだというふうに、私は思っております。
第3回「書くことのベースライン(アカデミックスキルズ)」