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アカデミックスキルズの基礎—高大接続の観点から—(全7回)

アカデミックスキルズの基礎—高大接続の観点から—(第4回「書き方をどのように教えるか—1つの案—」)

2023年3月31日に開催した、「明治書院オンライン研修会」の内容を、全7回の連載にまとめました。


第1回「自己紹介」
第2回「問題意識をもった切っ掛け」
第3回「書くことのベースライン(アカデミックスキルズ)」
第4回「書き方をどのように教えるか—1つの案—」
第5回「対話の必要性」
第6回「まとめ(対話から創造へ)」
第7回「質疑応答」


第4回 書き方をどのように教えるか—1つの案—

 ここでは、書くのに最低限の知識として有用な、英語でのパラグラフライティングの形式を扱います。この形式は日本語では一般的ではなかったものの、学術的な文章には浸透しつつあります。また、英語で書くならばこの形式は必須なので、学んで損はないかと思います。もちろん、これ以外の形式を否定するわけではありません。ただ、この形式で書く、あるいは読むことはとても簡単なんです。

 まずパラグラフライティングの歴史です。これは1957年、実は非常に新しいものなんですね。これはソ連が、スプートニク一号の打ち上げに成功し、アイゼンハワーがスプートニク危機を宣言した年です。この頃はアメリカで教育について見直しがなされた時期です。まずNASAを設立しました。あとは議会が国防教育法を制定します。それで、大学に投入される国家予算が1960年までの2年間で六倍になりました。さらに、理系教育と外国語教育に重点が置かれ、大学進学率も急増しています。もちろん、この裏には経済的な発展というものもあるのですが、国策としてこういったものが行われたわけです。そして、ウィリアム・ストランク・ジュニアさんとE・B・ホワイトさんによる「エレメンツ・オブ・スタイル」という書籍の改訂版が刊行され、1000万部も売れています。ここでパラグラフライティングや簡潔な文章を強調し、英語の読み書きの統一に採用された教科書となったのです。その後、1964年になるとETSによるTOEFLの試験が実施されるようになりました。

 イギリスやアメリカの大学には、文章作成のためのコースがあります。これを履修しない学生はいないはずです。私も大学教員になってから一年間、カリフォルニアに留学する機会があったのですが、海外から来た研究者向けに、こういったライティングのコースがたくさんありました。そこでみんな、めちゃくちゃな英文を書いては直していくということをやります。それだけライティングについて一生懸命教え、ライティングができないと研究者として、あるいは社会人として困りますよということが、アメリカでは強調されているということなんですね。

 宮本陽一郎先生の「英語で読む大統領演説」(放送大学資料)によると、ファイブ・パラグラフ・エッセー「5段落エッセー」というものを小学生から叩き込まれるそうです。まず1段落目にイントロダクション、「はじめに」があって、真ん中に「本文」が3段落分あり、最後に「結論・まとめ」があります。この本文の段落では、3つの例を挙げるそうです。二番目でも3つ、次も3つ。そういうトレーニングを積んでいるということです。

 イントロダクション、「はじめに」ですが、問題提起です。なぜそういう問題を扱っているのか、扱う意義。先行研究や資料、データを吟味して記します。イントロダクションの最後に「thesis statement」を配置するという決まりもあります。この「thesis statement」ですが、あまり決まった日本語訳がないようですが、これはその論文の中で主張したいことの要約ですね。

 次にライティングに必要なこととして、①情報と意見の伝達、②文章の構成、③脱日本語、④事実と意見の区別、があります。

 ②文章の構成については、アウトラインの重要性というものがよく挙げられます。例えば、初めに、「ペットを飼いたい人はいるだろう」「ペットとして猫を勧める」というのが「主張」です。本論では、ペットとして猫を勧める理由について、例のひとつとして「猫といると楽しい」ということが挙げられます。ここで例えば、例のふたつめとして「猫は行儀が良い」というものを挙げて、さらにその中に一個目「吠えない」、二個目「粗相しない」、三個目「爪の対策が可能」という具体的な例を挙げるのが理想的です。具体的な引用文献やデータを上げて書いていくのが好ましいわけです。結論として、「猫は忙しい人や住居の狭い人には最良のペットだ」というように書きます。ほとんどのワープロソフトに、アウトライン機能がありますので、そういうものを使って書いていくと書きやすいです。

 あとは、③脱日本語というのがライティングに必要です。これはちょっと強烈な言葉なんですが、今までの日本語の書き方みたいなことじゃなくて、明確な主張をしたり、主語述語をハッキリさせる、曖昧な表現をやめる、ということですね。

 最後に、④事実と意見の区別です。博士課程の学生さんなんかでも、たまに事実と意見を混同して論文を書いている人がいます。

 パラグラフライティングでは、まずトピックセンテンスを書いて、その下にいろんな資料を探して付け加えていく、ということをすると非常に書きやすい。ネットを通してでも図書館行ってでも、あるいは友人の助けを借りてでも、こういった資料を探すという活動をする癖をつけると、どこにどういう資料があるのかということがわかり、ひいては読書する習慣も身につくようになると思います。

 あとは書くことの効果として、書くことで論理の欠如が明らかになる点が挙げられます。しゃべっていても間違いは分からないんですけども、書き言葉にすると論理の欠如は本当にすぐわかるんですね。自分の主張や普段考えていることの、狭さや誤りに気がつくということもよくあります。例えば、「日本ではスキー人口が減っている」。これが数字を見てみると、スノーボードをしている人は増えているし、実はスキーをしている人口というよりもスキーをしてた年代の人が、単にどんどん高齢化して回数が減っているだけで、総人口は変わらない、なんてことが分かったりします。すなわち、批判的に読まざるを得なくなります。書いてみて初めて、「あ、そうか、こういうふうな考えを言っている人いるけど、いろんな資料を集めてみると、これ違うじゃん」とわかる。

 つまり、書き方がわかると読み方が分かるっていうところが重要なんですね。400ページとか500ページある書籍を読み通すことはかなり大変なわけですが、トピックセンテンスの知識を活用すると、段落の最初だけ読んでいけば大意は取れるわけです。パラグラフライティングという形で書かれた本であれば、段落の最初の文章を読んでいくと、かなりの部分がわかります。段落の最初の文章を読んでわからないところだけ、しっかりその段落も全部読むという読み方をすると、あっという間に全体を理解することができます。そういう読み方がいいのかどうかはともかくとして、そういう読み方も教えてあげるといいのかなと。

 まあ、そうは言ってもですね。大学の授業15回で完璧に書けるようになるっていうのは至難の業だろうと思います。最後に、この「書き方をどのように教えるか」という話をして行きたいと思っております。

第5回「対話の必要性」

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