アカデミックスキルズの基礎—高大接続の観点から—(第7回「質疑応答」)
2023年3月31日に開催した、「明治書院オンライン研修会」の内容を、全7回の連載にまとめました。
第1回「自己紹介」
第2回「問題意識をもった切っ掛け」
第3回「書くことのベースライン(アカデミックスキルズ)」
第4回「書き方をどのように教えるか—1つの案—」
第5回「対話の必要性」
第6回「まとめ(対話から創造へ)」
第7回「質疑応答」
第7回 質疑応答
Q.ピアレビューによって、ライティングの質が必ずしも上がるとは限らない(下がってしまうこともある)という研究結果もあるようですが、作品の質についてどのように評価されていますか?(相互評価でしょうか?)
A.はい、どうもありがとうございます。ライティングの質が必ずしも上がるとは限らないというお話は知らなかったんですけども、これは対象は大学生でしょうか?
——大学生だと思います。
大学生ですね。もしかするとこれは初期レベルが関係するのかなという気はします。ただ、ピアレビューを実施したところ、この授業の前後では、学生さんの書き方が変わる、ということは教員からよく伺いましたので,多くの場合は向上すると思います。対話も同様で、対話の授業を東工大の一年生で取り入れて、その後からは学生の授業中の発言の質と量がまったく変わったと言うことは多くの先生から伺いました。ですので、質が下がってしまうという実感は私にはありません。ほとんどの学生さんは向上するんじゃないかと思います。あるいは、評価の観点によって、そのような研究結果が出るということかもしれません。
——ありがとうございます。出来上がった作品自体を評価してというよりも、その主観評価として、学生も先生方も良くなったというふうに感じてらっしゃるということでしょうか?あるいは、ルーブリックみたいなものに基づいて、ピアレビュー前とピアレビュー後のものを評価されるのでしょうか?
はい、ありがとうございます。研究レベルまでは分析しておりませんので、ルーブリックなどで評価しているわけではなく、教員の実感や学生の態度として、評価が上がったということです。
Q.高校の授業でもぜひピアレビューを取り入れていきたいと思ってるのですが、学生さんたちは異なるテーマで執筆したものを持ち寄って、ピアレビューをするのでしょうか。高校で実施するとなると、異なるテーマで書いてきたレポートをレビューし合うというのは難易度が高いように思います。というのは、別のレポートを読んでレビューをするためにはそれについての基礎知識がないと、生徒たちは話ができないと思うのですが、大学の学生さんたちは、そのレポートを書く前にベースとなる知識を講義を受けてから同じテーマで書いてらっしゃるのか、それとも異なるテーマでいきなり始めてしまっているのか?大学での授業の実態を伺えればと思います。
A.ありがとうございます。普段は同じテーマで書いてもらってます。定番は、大学一年生に対して「大学でどういうことを学んで、それを社会でどう活かしたいか」というようなテーマや、あるいは「社会問題を一つ取り上げて、それを自分ならどういうふうに解決していくか」と言うようなテーマで書かせております。大きなテーマの枠組みは同じにしています。ただし、あまり絞ったテーマで書いてもらったことはありません。書評を書いてもらうときもあるのですが、同じ本でというのは難しいので、自由に選ばせるか、あるいは百冊ぐらい提示しておいてその中から選ばせます。書評ですとあまり難易度が上がらないので、ピアレビューもしやすいように思います。さらに、ライティングもしやすいんじゃないかと思っています。例えば、一部の学生は、ネットのレビューとかを読んで切り貼りをしてくるわけです。ただ、こちらはそのコピペを探索するソフトウェアをかけてますので、全部やっちゃうとわかるよってことは言っています。そうすると、その継ぎ接ぎをするにしても、ある程度自分の文章を混ぜないとおかしな文章になってしまいますので、全然書けない学生さんはそこから入るっていうのはありかなというふうには思います。
——ありがとうございました。お話を伺っていて、「高校での学びをどんなふうに生かすか」とか、そういうテーマならすぐにでも生かせそうだなと感じました。テーマが大きい方が、いろんな意見が出て、逆にレビューしやすいんだなというのを伺っていて気づいたので、絞り込みせずに生徒達から出てくる意見を大切にしながらやってみたいと思います。
Q.本校でも相互添削の試みを実施しています。課題の一つになっているのが、「ペアガチャ」ではないですが、レビュースキルの低い学生とペアになるとあまり効果が期待できない、という点です。このあたり、何か打開案をお持ちでしたらご教示いただけないでしょうか。
A.はい、ありがとうございます。おっしゃる意味は分かります。これは授業の回数にもよるかも知れませんね。一回の授業でしかピアレビューしないと、執筆者の方が全然勉強にならない、ということがあると思います。例えば、短時間でペアを変える、あるいは逆にピアレビューが苦手な生徒さん同士で組ませる、というような対処をするのはどうでしょうか。そして、何回かやっていくうちに、レビュースキルの低い生徒さんもよくなっていくと思うんですね。そういった生徒さんにもできるだけ取り組みやすいように、今日はこういう点をよくレビューしてみましょう、というようなインストラクションを与えてやる。そういう具体的な指示を与えるとよくなっていくかなと思います。
——ありがとうございます。一生懸命読むんだけど、「何も言うことありません」とか「よく書けてて指摘ありません」みたいに言う子もいて、でもその相手になった子はやっぱり何かしらフィードバックが欲しいと思うんですよね。ただ、その子は自分の文章を読んでもらうこと自体が勉強になってるところもあると思う。おっしゃる通り、私が今実践しているのが、一回だけ書かせてピアレビューしてというところで終わってしまうので、ペアをシャッフルしたり試してみたいと思います。あと、私はいつも二名でやっていたのですが、三名にするという方法もやってみたいと思います。大変勉強になりました。
Q.生徒同士がピアレビューしている時に、先生はどういう指導をしていけばよいのか、生徒さん同士で勝手にやらせていると、あらぬ方向に行ってるかもしれない時にどういう声かけをするのか。こういう方向でとか、こういう点に注意して、みたいなのがあれば教えていただけますでしょうか。
A.はい、やはりできるだけ声をかけないのが理想ではありますけれども、なかなかそうもいかないかなというのは現実問題としてはおありかと思います。例えば、ルールを決めておくってことは一つあるかなと思うんですね。こういうピアレビューは間違ってるかな?とか、ちょっと自信がないな、という時は必ず手を挙げてねということ。あるいは、終わっちゃったり、無言になったらっていう場合もあると思うのですが、手を挙げて、そうしたらそこに行って、「どんなとこピアレビューしたの?」「あ、ここはいいね。でも、ここはもっと膨らませられないかな」というような、少しサジェスチョンをこちらからしてあげることがあってもいいかなと思います。どういうふうにしたらいいか、なかなか分からないと思いますので、その前年の作文などを実際に添削した例を提示するのもいいかなと思いますね。
Q.同じテーマでピアレビューした後、全体にはどのように還元なさっているのでしょうか?
A.全体への還元としては、授業中見て回って、今日はこういうところを直してる人が多かったねって、授業の最後に言ったりはします。あるいは提出してもらった後に、こういうところレビューしてますねとか、これ間違いがまだみんな残ってますねとか言っております。それと、やっぱり悪い例ではなくていい例を言ってあげることが大切なので、「文章をうまく膨らませている人がいるね」「これすごくいい書き方なんで、みんなも真似してみたら」とか、そういうやり方があるかと思っております。還元するのはとても大切ですけれども、これはちょっと私、あんまり工夫ができてないかなと思いますので、先生方、ぜひ工夫していただいてチャンスがあれば私も伺いたいなと思っているところであります。
——どうもありがとうございます。小論文の授業で、自分で添削して「このポイントがよかったね」っていうところで終わってしまっていたので、ピアレビューという段階を入れることで、それがもっと良くなるかなと思って、勉強になりました。
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ありがとうございます。やっぱり先生の添削って一番いいと思うんです。たまに学生でもそういうことを言っていて、自分たちでやってても正しいかどうか分からないから、先生の添削も欲しかった、と。やはり最後に先生が添削して「ここが良かった」ということを指摘してあげるのがベストなのかなと思います。それがピアレビューと組み合わせると、本当にいい文章が出来ていくんじゃないかなというふうに思っています。