憐れむべし 身上の衣 正に単にして、…
本文(書き下し文):
憐れむべし 身上の衣 正に単にして、心に炭の賤きを憂いて 天の寒からんことを願う。夜来 城外に 一尺の雪ふり、暁に 炭車を駕して 氷轍を輾らしむ。
読み:
あわれむべし しんじょうのい まさにひとえにして、こころにすみのやすきをうれいて てんのさむからんことをねがう。やらい じょうがいに いっせきのゆきふり、あかつきに たんしゃにがして ひょうてつをきしらしむ。
通釈:
かわいそうにこの冬空に身に単衣(ひとえ)一枚をまとっただけ。それなのに炭の値段が下がるのを心配して、もっと寒くなるように願っている。ところが折よく夕べから大雪となり、この南の郊外にも三〇センチメートルの雪が降った。そこで爺さんは明け方から炭を積み込んだ車に牛を繋ぎ、轍が凍りついた道をゴロゴロ引いて町に行く。
出典:
『新釈漢文大系 97 白氏文集 一』
教科書にもよく採用される「売炭翁」の一節。やがて、馬に乗った宮中の使者がやって来て、車ごと炭を持って行ってしまう。理不尽な社会の実態を活写した一篇である。