天生の麗質 自から棄て難く、一朝 選ばれて君王の側らに在り。…
本文(書き下し文):
天生の麗質 自から棄て難く、一朝 選ばれて君王の側らに在り。眸を迴らして一笑すれば百媚生じ、六宮の粉黛 顔色無し。
読み:
てんせいのれいしつ おのずからすてがたく、いっちょう えらばれてくんのうのかたわらにあり。ひとみをめぐらしていっしょうすればひゃくびしょうじ、りくきゅうのふんたい がんしょくなし。
通釈:
天性の麗しさはそのままそっと捨て置こうとしてもそれはなかなかできるものではなく、ある日、選ばれて君王の側にお仕えする身となった。彼女が瞳をめぐらせて一笑すれば、そこには様々に表情を変える艶っぽさが浮かび上がり、これに比べると、化粧を施した後宮の美女たちも見るに耐えないほどみすぼらしく感じられた。
出典:
『新釈漢文大系 117 白氏文集 二下』809ページ
「漢皇 色を重んじて傾国を思い」で始まる「長恨歌」全120句の第5~8句。この後、「春寒くして浴を賜る 華清の池、温泉 水滑らかにして 凝脂を洗う。」と続き、このときから玄宗皇帝と楊貴妃の関係が始まる。やがて安録山の乱、妃の死、都への還御、妃の魂との再会、そして最後は「天に在りては願わくは比翼の鳥と作り、地に在りては願わくは連理の枝と為らん。天長く地久しきも時有りて尽く、此の恨み綿綿として絶ゆる期無からん。」で結ばれる。「長恨歌」というタイトルも最終の2句に由来している。『源氏物語』ほか多くの作品に引用され、日本文学に大きな影響を与えた。なお、『古文真宝前集』巻之八にも収録されている。