孔子曰く、苛政は虎よりも猛しと。吾嘗て是を疑う。…
本文(書き下し文):
孔子曰く、苛政は虎よりも猛しと。吾嘗て是を疑う。今以て之を観るに、猶信なり。嗚呼、孰か賦斂の毒、是の蛇より甚だしき者有るを知らんや。故に之が説を為りて、以て夫の人風を観る者の得るを俟つ。
読み:
こうしいわく、かせいはとらよりもたけしと。われかつてこれをうたがう。いましょうしをもってこれをみるに、なおしんなり。ああ、たれかふれんのどく、このへびよりはなはだしきものあるをしらんや。ゆえにこれがせつをつくりて、もってかのじんぷうをみるもののえるをまつ。
通釈:
孔子は、税のきびしい政治は虎よりも害がはげしいといったが、私は以前にこれを疑っていた。しかし今蒋氏のことでこれをよく見ると、やはりほんとうである。ああ、租税徴収の害がこの毒蛇よりも甚しいものがあることを誰が知ろうか。皆知らないのである。故に私はこの「補蛇者の説」を作って、かの人民の様子を観る為政者がこのことを会得するのを俟つのである。
出典:
『新釈漢文大系 71 唐宋八代家文読本 二』644ページ
柳宗元の「補蛇者説」の最後の部分。「蒋氏」は、三代に渡って異蛇(猛毒を持つが、干して薬にすると、様々な病気に効能がある蛇)を獲る権利を独占している民。祖父も父も蛇のために死に、自分も危険な目に遭っているが、租税を免除されるので、この仕事を続けていると言う。それを聞いた柳宗元は、この説を著し、孔子の言葉を引き合いに出して結んでいる。