礼は人に由りて起こる。…
本文(書き下し文):
礼は人に由りて起こる。人生まるれば欲する有り。欲して而も得ざれば、則ち忿る無きこと能はず。忿りて而も度量無ければ則ち争ふ。争へば則ち乱る。先王、その乱るるを悪む。故に礼儀を制し、以て人の欲を養ひ、人の求めを給し、欲をして物に窮まらず、物をして欲を屈さず、二つの者をして相待ちて長ぜしむ。是れ礼の起こる所なり。
読み:
れいはひとによりておこる。ひとうまるればほっするあり。ほっしてしかもえざれば、すなわちいかるなきことあたわず。いかりてしかもどりょうなければすなわちあらそう。あらそえばすなわちみだる。せんおう、そのみだるるをにくむ。ゆえにれいぎをせいし、もってひとのよくをやしない、ひとのもとめをたらし、よくをしてものにきわまらず。ものをしてよくつくさず、ふたつのものをしてあいまちてちょうぜしむ。これれいのおこるところなり。
通釈:
礼は人間から起きるものだ。人間は生まれると欲をもつ。欲するところがあってもそれが得られないと、いらだち怒らざるを得なくなる。いらだち怒って限度を失えば争い、争えば乱となる。古代の王となった人はその乱を憎んだがために礼儀を制定して、一方では人の欲するところを育てながら、人のほしがるものを与え、その欲望で物を求めても尽きないようにし、一方では物資が欲求のために欠乏しないようにし、欲と物と、両々相俟って長じ不足させないようにした。これが礼の起原なのである。
出典:
『新釈漢文大系 41 史記 四(八書)』9ページ
「礼書」の一節。司馬遷の礼に対する見解が示されている。本巻は、ほかに楽・律・歴・天官・封禅・河渠・平準、全部で八つの書からなる。