夜宴左氏荘(杜甫)
書き下し文:
夜 左氏の荘に宴す
現代語訳(全文):
夜、左氏の別邸における宴
風ばめる木々の向こうに細い月が沈み、
衣は露に濡れ、清らかな琴(きん)の糸が張られる。
暗がりを流れる泉水は花香る小道を縫い、
春の星は草堂をそっと包む。
書物を吟味しているうちに蠟燭も細り、
刀剣を閲(けみ)しながら酒杯をおもむろに引き寄せる。
詩の披露が終わって呉の歌の詠唱を聞く。
かの地を小舟で旅した時のことは今も胸にのこる。
出典:
『新釈漢文大系 詩人編6 杜甫 上』
貴人の宴に陪席した詩。細い月が沈む日暮れ時、饗宴は庭から始まる。闇が深まり、視覚に代わって、足下を流れる水の音、咲き乱れる花々の香りといった聴覚と嗅覚のみで情景を捉える。