天下皆怯にして独り勇なれば、則ち勇者勝ち、皆闇にして独り智なれば、則ち智者勝つ。…
本文(書き下し文):
天下皆怯にして独り勇なれば、則ち勇者勝ち、皆闇にして独り智なれば、則ち智者勝つ。勇にして勇に遇えば、則ち勇者は恃むに足らざるなり。智にして智に遇えば、則ち智者は恃むに足らざるなり。夫れ唯だ智・勇の以て天下を定むるに足らず。是を以て天下の難、蠭起して平らげ難し。
読み:
てんかみなきょうにしてひとりゆうなれば、すなわちゆうしゃかち、みなあんにしてひとりちなれば、すなわちちしゃかつ。ゆうにしてゆうにあえば、すなわちゆうしゃはたのむにたらざるなり。ちにしてちにあえば、すなわちちしゃはたのむにたらざるなり。それただち・ゆうのもっててんかをさだむるにたらず。ここをもっててんかのなん、ほうきしてたいらげがたし。
通釈:
天下の者が皆臆病で一人だけ勇気があれば、勇者が勝つし、皆が不明で一人だけ賢ければその賢い者が勝つ。こちらが勇で他も勇ということなら勇は頼りにならず、こちらが賢く他も賢ければ智というのも頼りにならない。つまり智とか勇とかだけでは天下を平定できない。だからこそ天下の難は、数多く起こり、これを平定するのは難しい。
出典:
『新釈漢文大系 75 唐宋八代家文読本 六』849ページ
蘇轍の「三国論」の冒頭部分。この後、曹操・孫権・劉備は、智も勇も同程度だったために、だれも天下を得ることができなかったと述べている。