文の德たるや大なり。天地と並び生ずるは何ぞや。…
本文(書き下し文):
文の德たるや大なり。天地と並び生ずるは何ぞや。夫れ玄黄色雑わり、方円体分れ、日月璧を畳ねて以て麗しき天の象を垂れ、山川綺を煥かして以て理ある地の形を舗く。此れ蓋し道の文なり。
読み:
ぶんのとくたるやだいなり。てんちとならびしょうずるはなんぞや。それげんこういろまじわり、ほうえんかたちわかれ、じつげつたまをかさねてもってうるわしきてんのかたちをたれり。さんせんきをかがやかしてもってすじめあるちのかたちをしく。これけだしみちのぶんなり。
通釈:
うるわしきもの―その存在は、すばらしいことだ! それが天地の発生と同時に発生したと言えるのは、なぜか。いったい、玄い色と黄色とが雑交して天と地ができ、日と月とが二つの璧(たま)をかさねたようにつらなって美麗な天の象を示し、山や川が絹布の模様のような美しさをかがやかして秩序整然たる地の形を展開しているが、これは美わしくあろうとする宇宙の元気が天地に発現した文(あや)である。
出典:
『新釈漢文大系 64 文心雕龍 上』15ページ
冒頭の原道篇の最初の一文である。「原道」とは、「道に原(もとづ)ける」という意味。この篇は、「道」すなわち天地自然の根本理法は、美をその本質とするものであることを論じ、人間の文化活動の一環としての文学もまた本質的には、道にもとづく美的言語表現であることを明らかにする。