守株
本文(書き下し文):
宋人に田を耕す者有り。田中に株有り、兎走りて株に触れ、頸を折りて死す。因りて其の耒を捨てて株を守り、復た兎を得むと冀ふ。兎は復た得可からずして、身は宋國の笑と為れり。
読み:
そうひとにたをたがやすものあり。でんちゅうにかぶあり、うさぎはしりてかぶにふれ、くびをおりてしす。よりてそのすきをすててかぶをまもり、またうさぎをえんとねがう。うさぎはまたうべからずして、みはそうこくのわらいとなれり。
通釈:
宋国に田を作る男があった。田に切り株があって、うさぎが走って来て株にぶつかり、頸を折って死んだ。そこで男はすきを捨てて株を見守り、またうさぎのかかるのを待ち望んだ。だが、うさぎは二度とかからず、男は国じゅうの物笑いとなった。
出典:
『新釈漢文大系 12 韓非子 下』828ページ
…いま古代聖王の政道を持ち出して現代の民を治めようと望むのは、みな切り株を見守る男の類である。
そもそも古代には、男が田を作らなくても草木の実だけで食ってゆけたし、女が布を織らなくても獣類の皮を着れば十分であった。労力を用いずに生活の品が足り、人民が少なくて財物の方が多い、だから人々は争わない。従って厚賞と重罰を用いなくて人民は自然に治まった。